[携帯モード] [URL送信]

神様の意義
好きな人
 妹の実花は「お兄ちゃんが好きよ」と呟いて、この世の終わりとでもいうような悲壮な顔をして、「ごめんなさい、なんでもないの」と小さく肩を震わせた。
僕はそんな彼女が愛おしくなって「僕もだよ」と肩に手を置いた。
 ふたりで行った映画館の帰りだった。
巷で良いと噂になっていた恋愛映画で、実際見てみるとそうでもなくて、僕はあまりのつまらなさにうたた寝をしてしまった。でも実花はそうでもなかったらしく、映画の余韻にでも浸っているかのように、私たち、恋人に見えるのかな、と小さな声で言った。
 そういえば見ていた映画は近親相姦の映画で、叶うことのない恋を、彼女と彼は一生懸命に乗り越えていた。寝ていたからラストは見ていなかったから実花に聞いたら、ハッピーエンドよ、と頬を染めた。
 実花は、僕を好きだと言った。それを僕は知らされて、僕も実花を妹でなく、ひとりの女の子として見ていたことを実花に告げた。
 いつからかは知らない。気づいたら実花は女の子だった。それだけ。
「ね、お兄ちゃん」
「なに?」
「修介って呼んでもいい?今だけ」
 僕と実花は騒がしい街の中で手を繋いだ。この人ごみじゃ手を繋いでいるのは周りは気づかない。気づいても、僕たちは単なる恋人にしか見えないさ。
 実花は恥ずかしそうに頬を染めた。
 実花はモテていた。今までも何人かと付き合っていたし、恋人が途切れることもなかった。次から次へと恋人は出来ていたから、実花が僕へ恋心を持っていたとは気づかなかった。
「修介」
 実花は恥ずかしいのか、うん、やめよう、と言って、手を離した。僕は離された手の行方が定まらずに、宙をさ迷う。
 繋ごうよと言うと実花は俯いて小さく頷いた。可愛い。僕はとっさにそう思って、自分がどれだけ実花を想っていたかということを思い知らされた。
「実花、恐れることはないよ。僕は実花が好きだし、その事実を覆すものは何もない。こんな人ごみならば恥ずかしくないよ、手を繋ぐことも、僕を修介と呼ぶことも。反対にお兄ちゃんと呼ぶほうが不自然だから大丈夫だよ」
 そう一気に言うと僕は息をついて、な、と微笑みかける。
 実花は小さく笑うと、そうね、と答えた。長い髪の毛、茶色い瞳、赤く染まった唇に唇と同じく赤く染まった頬、整った実花の顔は本当に愛おしい。見た目で判断するのも僕はあまりしたくないけれども、実花の容姿は余りにも美しい。男なら誰もが手にしたくなるだろう実花が僕のものなんて、信じられない。自分を大好きよ、と言ってくれる、なんて幸せなことなんだ。
「実花、こっちへおいで」
 実花の手を引くと僕は小さい路地へと入り込む。そして抱きしめると、実花の赤い唇に自分の唇を重ねる。愛おしい実花、僕は僕たちの関係が世界から省かれる関係だとしても、汚いと言われようが、僕は実花を愛してる。
「愛してるよ」
 愛してるともう一度繰り返すと、実花は照れたように首を傾げて喜んでいるのが手に取るようにわかる。僕は嬉しくなって実花を力いっぱい抱きしめる。
「痛いよ、お兄ちゃん」
「ふたりだけの時は修介って呼んで」
 実花は少し間を開けてから、修介、と僕の名前を探るように呼んだ。愛おしい愛おしい君の為に僕はなんでもやろう、そう神様に誓うよ、絶対に離れない、僕たちはずっと一緒だ。
「実花」
「修介」
 何も泣くことはない。僕たちは愛し合っている、それだけだ、悪いことは何もしていない。実花を、僕は愛している。ただそれだけ。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!