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神様の意義
親友のひとこと



 夏休みも終わりに近い9月の半ば、親友の実花は、私、彼氏出来たんだ、と頬を赤く染めて幸せだと言わんばかりに満面の笑顔で言った。
 カラン、とアイスコーヒーの入ったコップが音を立てる。コップは水滴で汗をかいているみたいで、暑い手のひらは冷たくて気持ちが良い。エアコンの効いた喫茶店の中も涼しくて、先ほどかいた汗も冷気で乾いていた。
 実花は実にモテていた。けれどどの恋愛も長続きせず、彼氏が出来る度に私をこの喫茶店に呼び出して、彼氏が出来たの、と告白を受けていた。前の彼氏には「お前、何考えてるかわからない」とふられていて、実花はなぜかいつもそうやってフラれている。外見は百人が百人みんなが綺麗というもので、中身はミステリアスで落ち着いている。私とは正反対の実花に私は少し嫉妬心というものを、何回も抱いていた。でもいつも実花は何か、得体の知れないものを抱いているのがわかっていた。ふと見せる影のある顔が、また、男たちの何かをそそっていたのだろう。私も実花にはドキドキさせられる。そんな魅力を実花は持っていた。
「んで、次の彼はどんな人?」
 そう聞くと、実花は、「小百合の知ってる人。で、私のとっても身近な人」と言い、ふぅ、と息をついた。
「ね、小百合には嘘つきたくないの。話を聞いてくれる?私の本当の気持ち」
 私はふたつ返事でいいよと答える。実花は少し困ったように礼を言うと、ストローに口をつけてコーヒーを飲んだ。
「私ね、ずっと好きな人がいたの」と切り出す。
 実花が言うには、今まで付き合ったどんな人も好きになれなかったということ。告白されて、好きになるかもしれないからと付き合ってみて、だけどみんな好きになれず、ずっと好きだったその人のことを忘れられずにいた、ということ。
 私は何も知らなかった。実花とは小学生以来の親友だが、実花に好きな人がいたなんてこと知らなかった。気づきもしなかった。
私はこの前の日曜日に、実花がお兄さんと手を繋いで歩いていたのを思い出す。ドキンと胸が鳴る。あれは、見間違いじゃなかった? 実花の好きな人は、付き合いはじめたのは、お兄さん…。見間違いかと思って、何も聞かないでいたけれど、あの時聞かなかったのは正解だったのかもしれない。けれど、何も知らなかったふうには出来ない。私は実花の親友だから。
「実花、隠さないでちゃんと話してね」
 私はすうっと息を吸うと、胸の高まりを収めるように、息をゆっくり吐いた。私と同じように実花も緊張感を持った表情をしている。なかなか言い出せなくて、実花は曇った顔で首を傾げて、なぁに?と恐々と聞いてくる。あぁ、私の言いたいことがわかっているんだ、と実花の気持ちを理解して、私は前を見据えて実花を見る。
「実花の付き合ってる人はお兄さん?」
 私は、やっぱりと息を飲んだ。実花は動きを止めて、もしかしたら息も止めているのかもしれない、目を見開いて私を見てる。しばらくすると実花は顔の緊張を崩し、にっこりと笑う。私は違うよ、と言う実花を望んでいたのかもしれない。だけど実花の口から出てきた言葉は違った。
「そうなの。なんだ、バレてたの」
 やっぱり…。私は肩を竦めると、「この前、実花とお兄さんが手つないでるとこ見たの」と言って、ショックを受けている自分がいたことを理解した。きっと実花の口から、違うよ、と笑って言うのを望んでいたのだと思う。ただの、嫉妬だ。実花が男の人と付き合う、そのことに嫉妬していたんだ。今までの恋人が出来たときとは違う実花の幸せそうな顔。
 実花は、ふふふ、と上品に笑うと、私幸せよ、と頬を染めた。


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