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03.

おずおずといったように東館3F(装具品・武器展示室)に行こうと誘いをかける淳に青也はああ、と気の無い返事を返した。
青也自身返事とは裏腹に焦っている。それを今言ったとして淳を更に困らせるだけだったので言わなかっただけだ。

配布されたパンフレットをパシン、と掌で叩く。
グイッと飲み物を飲み干してそれがブラックコーヒーだという事実にわっと青也の涙腺が緩んだ。子供舌の青也に苦い物はキツい。

「…青也?」
「……よし、行くか!」

額の皺を指で伸ばした青也のキッとした表情に僅かばかりにホッとしたように肩の力を抜き淳はその後ろをついていく。
その姿を嵐が不敵な笑みを浮かべながら見ていた事に二人は気付く事はなかった。


博物館の廊下は薄暗い。日光に当てないようにするためだろうか、青也にはよくわからない。
絨毯が唯一敷かれていない階段は足元が青白いライトをはめ込んだガラスだ。幻想的というよりは少し不気味だ。

「例えばどんなのがいいとか、案はあるのか?」
「うーん、ドカーンって出来てドババーってなってバッサーって感じのカッコいいやつ。」
「わかんねえよ。」
「俺もわかんねえ!」

青也の声に館の職員が「館内ではお静かに」と妙に機械的に嗜める声をあげた。
すみません、というその常套句に心は篭っているものか。慌てたようにその場を後にした二人は館内案内の大きなマップの前で立ち止まった。
淳が指で道をなぞるのを青也は目で追う。目的は、閂界人が使っていた武器だ。

「ここだ、装具品・武器展示室。この奥にあるみたいだな。」

装具品・武器展示室は1.2.3…と三部屋用意されている。1は装飾品が主、2は主流武器とその移り代わり。
そして3は有名な戦士が使っていたとされる武器や装飾品の類が置いてあった。

ガラスを一枚隔ててさえいれば展示物はとりあえず守られる。本物ばかりだというのだからそれは仕方がないこと。
ベタベタとガラスに指紋を付けられるぐらいは拭けばいいので大目に見ればいい。余程の神経質でない限りは。
全ては展示物の為である。それが博物館の原則であるだろう。この博物館も例外ではなかった。
ある一つを除いては。

もちろん写真撮影も禁止なのであるがその部屋に入るには携帯やゲーム機などの精密機械を入り口にいる係員に預けなくてはならなかった。
理由は単純に、その精密機械に異常をきたすかもしれないからだ。ペースメーカーなどの使用者も遠慮している。

年を積み重ねながら莫大な電気エネルギーを溜め込んだその刃は人が近付けないように柵で区切られた半径1mの円の中心で淡い橙色のライトを浴びていた。
全長2m近い刃の切っ先を下にした鈍い銀色のそれ。背から僅かに伸びた突起は説明により持ちての名残であったとわかる。
真ん中から、――少し前屈み気味の――くの字に歪んでいたがそれは立派な、剣、というよりは包丁に見えた。

雷の使徒の祖、雷の王ガンバスが用いていたという大剣である。

磁剛石(じごうせき)という閂界特有の金属の一種を切り抜いて作った一枚刃はその身に大量の電気を溜め込んでいた。
石とは名ばかりのれっきとした金属なのである。
磁剛石というものの特性なのだが。見た目に反して密度と質量が低いそれは金属の結合の間々が大幅に空いており、その隙間に静電気を溜め込む性質を持っている。それはまさに電気エネルギーを自在に操る雷の王に適した武器であるといえた。


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