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05 野良猫と野良犬*



「んっ、あ…っ」



ナマエのしなやかに反らされた腰に腕を差し入れて、彼を抱き寄せたエースは、下がった眉尻の下で虚ろになった金色の瞳に生唾を飲み込んだ。汗で額に張り付いた前髪を掻き分けて、ナマエの色付いた唇に深く口づける。口内を掻き回す舌に吸い付いて、エースの首に腕を回すナマエ。二人は夢中でキスをした。エースが腰を動かす度に結合部は厭らしい音を立てる。くぐもった鼻息、ナマエは四肢を震わし、エースが腰を打ちつける度に、より一層と弧を描く背骨。密着する身体を溶け合うくらいに抱きしめながら、時々、たまらず上がるナマエの小さい喘ぎにエースは興奮していた。

何回目かになる絶頂に、ナマエは声にならない悲鳴を上げた。体を痙攣させ、荒い呼吸で肺に酸素を取り込みながら、もう無理だ、と音を上げる彼の中に入ったままのエースは、再び有無を言わさず律動を開始する。達したばかりの身体には苦し過ぎる刺激に、再び我を失うナマエ。自身の腰をしっかりと掴むエースの腕を力の入らない手で握り締めながら、めちゃくちゃに奥を突かれて意識が白む。首筋を反らして薄い胸を突き出し、銀髪をシーツに擦り付けるナマエを、エースは凝視した。過ぎる快感に歪む美しい顔は、エースをますます興奮させる。声を殺しながら、涙を浮かべて悶えるその姿は、彼には見たことがない程に官能的だった。



「…!も、いい加減…っ!!」

「っ、何でだよ、イイだろ?」



現に後ろでは何度も達しているが、ナマエの性器は水たまりが出来るほどに先走りをこぼしている。そういう問題じゃない、とナマエは力の入らない手のひらでエースの腕を掴みながら必死に身を捩った。その度に追いかけてきては深く突き上げ、ギリギリまで中のものを引き抜くエースになす統べなく、されるがままに鳴かされる。ナマエは、早くエースがイくのを耐えるしかなかった。ぐちゃぐちゃと中を掻き回すエースの動きが、だんだんとスピードを上げる。余裕のない彼の息づかいは絶頂が近いことを示していた。逃げることもできずに腰をがっちりと掴まれたナマエは、痛い程に奥を突き上げてくるエースを見ることもできず、断続的に押し上げてくる快感に漏れる声を押さえられずに喘ぐ。そして、エースの小さい呻きと共に腹の奥へ注がれる熱いものに、ナマエの身体の熱は弾け飛んだ。どくんどくん、と心臓のように脈打つそれを、ずる、と引き抜いたエースはナマエの横に倒れ込むと、ぐったりと脱力する彼を腕の中へ抱きしめる。すげーよかった、なんて満足げに零してくれたエースに、ああそうですか、と更に脱力感を覚えたナマエは、もうどうでもいい、と目を閉じた。

腰と腹が痛い、とナマエは隣で幸せそうに眠っているエースを叩き起こして、まず一番最初に文句を言った。頬を掻きながら困ったみたいに照れ笑いするエースをむかつきにまかせて思わずベッドから突き落とす。一昨日の筋肉痛もまだ抜けきっていないナマエにとって、戦うどころか、動くことすらできない。どうせ今日だって、あの鬼のマルコに無理矢理組み手を組まされるに決まっている。恨みつらみの視線をエースに送りつければ、彼は爽やかに笑いながら、もうずっと負け続ければいいじゃないか、と爆弾発言を投下する。というのも、ナマエは昨夜、組み手に負けたのを理由にエースに身体を迫られたのだ。それを軽い気持ちで了承した自分も自分だが、ずる賢いクソガキだと重たい腰を押さえながら舌を打つ。どうせ組み手に負けたら、またそれを理由にしようと思っているのだろう。そんな負のループに陥ってしまったら、体がいくつあっても足りやしない。ナマエは、何とかして今日の組み手を逃れる為の言い訳を考えなくてはならなかった。






〔野良猫と野良犬〕





「あら、また来たの?」



最近よく怪我をするのね、と医務室を昨日今日と訪れたナマエにナースが笑った。今日の決着が着くのは早かった。それもこれも尾を引く筋肉痛と、昨夜の熱い行為のせいである。エースのやつ、と苛立ちを押さえながらナマエはナースに笑い返した。確か名前はアンジェリーナ。怪我をしなきゃ君に会えないだろ、アンジー、なんて軽く言ってナマエは彼女を喜ばせた。冗談とわかっていても、心から喜んでくれる彼女たちは身軽で、強かで、器用に立ち振る舞う。彼はそういう女が嫌いではなかったが、好きになることはもっとなかった。医務室のベッドに腰をかけ、エースにこっぴどくやられた腕や腹の打撲を丁寧に治療していくアンジェリーナの横顔を覗き込む。よくよく見ると、愛嬌のある垂れ目が可愛らしかった。

そんなに見つめられたら治療ができないわ、と大して困った様子もなく肩を竦めるアンジェリーナ。ナマエは笑って彼女の絹のように細やかな頬に触れた。女の体は男よりも好きだ。それは最早理屈じゃない。その事を思い出す度に、こんな自分でも男の本能的な部分があるんだなあ、と感心したりする。ただ一つ、ナースに手を出すのは御法度だ、とサッチが言っていたのをナマエは覚えていた。本当に愛し合ったり、こそこそ付き合ったりするやつらもいるが、彼女たちを傷つけることはマルコを怒らせるよりも恐ろしい事なのだと。ナマエはため息を吐いてアンジェリーナの頬から手を下ろした。海賊も色々大変なんだな、と名残惜しくも諦める事にする。マルコを怒らせるよりも恐ろしい事が未知数な彼にとって、触らぬ神に祟りなしだ。



「ナマエは、どういう子が好きなの?」



あなたは人気だから、友達に教えてあげたいの、と悪戯に微笑むアンジェリーナ。手際よく腕へ包帯を巻いていく彼女を見つめながら、うーんと唸った。無節操な自分に好みなどあって無いようなものだと一番よくわかっているのは、ナマエ自身だからだ。そうだなあ、と包帯を巻き終えたアンジェリーナの漆黒の瞳を見つめる。誰だと思う?と含み笑いをするナマエに、ずるい人ね、とアンジェリーナは言い返した。



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(うーん、今日は大部屋で寝ようかな…やだけど)(エースはどうしたんだい)(だってあいつ絶倫なんだもん…て、マルコ?)(ああ、身が持たねえなそりゃ)(…部屋行って良い?)(断るよい)(……)








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