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01 愛なんて言葉で片付けた


「マルコたいちょーマルコマルコマルコたいちょーう」



新聞へ目を落とすマルコ隊長はまったく完全に敵ながら天晴れと褒め称えてやりたいほど、完璧におれをスルー。視界にいれようとすらしない。理由は簡単。おれがいくらマルコ隊長のことを気にかけたところで、彼はおれのことを悲しいかな馬が合わないと嫌っているからだ。好きだ好きだと言っても日頃の行いが行いなだけに、まったくもって相手にされないのは仕方がないことかもしれない。でもほんの数ミリでもいいからおれのことを気にかけてほしいと思ってしまうのは、我が儘だろうか。

風に揺られる金髪の下、青い瞳はちらりと眇めるようにおれを見た。ああ、素敵にきれいだ。うっとりと空のような海のような青色の瞳を見つめ返すと彼は舌打ちをして丸めた新聞をおれに向けて勢いよく振り落とした。



「こっち見んじゃねぇよい、気持ち悪ィ」



痛くはないけれど、決して痛くはないけれど、どうも心が痛みを訴えた。本日一回目の会話が気持ち悪いとは酷い人だ。それでも無視し続けられて一日を終えるよりは遥かに良いので、おれは頭を押さえてへらへらと笑ってみせれば、マルコ隊長はまたも嫌そうに顔を歪めると舌打ちをして、おれの猛アプローチを振り切りどこかへ歩いて行ってしまった。ああ、颯爽と歩く姿も男前だな、とその背中を見つめていると、聞き慣れた声がおれの名を呼んだ。振り返れば、そこには心底楽しそうに笑っているエースが歩いてくるところで、おれは片手を上げて笑い返した。



「ほんと懲りねーな」

「んー、まあね」



我らが二番隊の隊長。マルコ隊長のいる一番隊に入りたくないと言えば嘘になるが、おれはエースの部下であるのも別に嫌ではなかった。つまりは現状満足である。マルコ隊長の格好良さは誰にも負けないが、男前度でいったらエースだって劣らない。何より、年も近い彼とはいろんな意味で仲良くやっていたし、そんな関係は刺激的で楽だと思っている。自身の腰に回された大きな手の平に、相変わらずなのはエースも同じだとおれは思ったのだった。こんなことばかりしているからマルコ隊長から避けられるのだとわかっていても、それはまったく理性の話で、自身の理性と肉体はきれいに切り離されて神経の一本すら通っていないのではないかと思うほど、おれは本能に忠実である。そんな風に悶々と考えてみた結果行きつく答えはいつも一つ、別にきもちーなら何でもいっか、だ。





01.愛なんて言葉で片付けた





夜になり仕事も夕飯も終え、船の上ではそれぞれが好きなように自分の時間を過ごす中、おれは一つの部屋の前に立っていた。こんこんと扉を叩き、返事は待たずに押し開ける。見慣れた部屋のベッドに寝っ転がっていたエースは、待ってましたとばかりに起き上がると、にいっと笑みを浮かべて片手を上げた。

おれは早速ベッドに飛び込んで、彼の膝の上に乗り上げる。これだっていつものパターンだ。ふと横を見ればエースが酔うたびに自慢してくる弟の手配書。ここだけの話、いつかこのエースの自慢の弟にも会ってみたいと思うのだ。自分の兄が男であるおれとしょっちゅうセックスしているなんて聞いたら、彼はどんな反応を見してくれるのか、なかなか興味深い。そんな事を思ってしまう自身の悪趣味さに苦笑しながら、おれは目の前の逞しい首に腕を回し薄い唇に深く口付けた。

舌を絡め隙間という隙間を埋め尽くすように何度も角度を変えては深く深く、息もできないほどに求め合う。たったこれだけの事でどうしようもなくおれの正直で馬鹿でエッチな身体は熱を持ち始めてしまうのだから、スケベと、淫奔と、言われたって反論のしようもない。自分自身ですら自らの節操のなさに笑ってしまうくらいだ。やめられないのだ。このたまらない熱を、おれは愛なんてものと錯覚しているから。



「…っ、」



おれの平らな胸を這うゴツゴツとした生温い感触にぞわぞわと背中を何かが駆け抜けていき肌が粟立った。思わずくしゃりと目の前の癖っ毛を腕の中へと抱きかかえると、結果的におれは墓穴を掘ったらしい。先端に熱が溜まり赤くなった胸の突起をエースが口に含み、歯を立ててみたり、舌で擦ってみたりと色々試そうとするのだ。その度におれは女のような高い声が漏れそうになるのを噛み殺した。セックスをするのは別に良い。タチでもネコでも気持ちよければどっちだってする。ただ、おれは男だから自分が女のように鳴くのだけは、なけなしのプライドが許さなかった。それを楽しそうに笑うエースの息がわざとなのだろうけれど、いちいち敏感な部分を掠るから、その度におれの腰は疼いて砕けそうになる。縋るようにエースの首筋に抱きつき、甘く痺れる快感を、決定的な快楽を、おれは既に欲しいと思わずにはいられなくなっていた。



「も…はやくっ…!」

「…っ!」



性急に腰を掴まれて、ねじ込むようにエースのものが中へと入ってくる。内壁を拡げるように熱い質量が下腹部を圧迫した。ただの熱がとんでもない快感に成り代わり、声にならない声が漏れ、足が震える。おれは挿れられただけで達してしまった。目の前がチカチカと白み、エースを抱く手に力を込める。まるで、本当に愛し合っているようだと思った。






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