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06 七色の飴玉



「なんだ二人ともナマエのこと知ってんのか?」



にいっと笑みを浮かべるルフィの横で明後日の方を向いているナマエをちらりと伺ったエースはやはり虫の好かないやつだと思った。あの性格の悪そうな男が一体なんでルフィと一つ同じ傘の下一緒に歩いてなんかいるのか。というか、いつ知り合ったのか。頼むから借りは作ってくれるな、と突っ立っているルフィの腕を掴み、自身の傘の下に引き込むと、男は涼しい顔で何事もなかっかのように歩き出した。

その様子を見て、ふう、と息を吐いたのも束の間で、ルフィはナマエが進み出すと弾けたようにエースの傘から飛び出し、ナマエの背中に飛びつく。端から見ればエースは親愛なる弟に振られたようであり、それを見てサボはくつくつと肩を揺らし、結局ルフィと二人並んで歩くナマエの横に並んだ。ルフィもサボも一体いつの間に仲良くなったのか、初対面が最悪の印象だったせいかエースはナマエにあまり良い思いがせず、三人の後ろから歩く。一向に弱まる気配のない雨音の中、もう何百、何千と聞いてきた踏切の音が聞こえた。

ルフィが興奮した様子でサボにナマエとはここで会ったのだと話す。開かずの踏切を二人は足に力を入れると軽く飛び越えると、二人は向こう側へと会話に夢中になりながら歩いていく。半ば習慣化しているこの行為は見慣れたものだが、ナマエは一人踏切を渡らずに立ち止まってしまう。前を見ればルフィは自分の頭上に傘がないことなど、まったく気づいていないようで、どこまで抜けているのかとエースは頭を抱えたくなったが、ゆっくりとした歩みはやがてナマエに追いついた。彼の視線はあの日のようにただ電車も何も通らない踏切の向こうの線路に注がれ、それ以外はなにも映さない。



「…渡んねーの?」



不意に見えた傘の下のその横顔から覗く瞳があまりにきれいで、思わず立ち止まり声をかけてみるが、それでも予想通りだが、ナマエは返事ひとつ寄越さなかった。やっぱり無愛想で好かない。エースは腰を屈げて遮断機をくぐると、もう一度ナマエを振り向いた。踏切マニア、と言うにしては随分と憂いを帯びたような瞳をしている。雨のようで、夢の中にいるような、虚ろな瞳。おい、と声をかけても答えないナマエに痺れを切らしたエースは二つ目の遮断機を飛び越えて、今度はサボの傘の下へと入っているルフィたちの背中を追いかけた。





06.七色の飴玉





「あぁ、くっそ…」



しばらく歩いてみたが、やはり同じ場所にナマエは立ったまま動かない。あんなやつ放ってさっさとルフィとサボを追いかければいいと自分に言い聞かせてみても、体が、足が、踵を返し再び踏切へと向かって進み出していた。どうしてもあの悲し気な瞳が気になってしまう。きっとあいつからしたら余計なお世話ってやつで、けど、それならどうして悲しそうにするのか、文句すら言いたい気持ちだ。丁度よく開いた遮断機をくぐり抜けて立ち尽くすナマエの細い手を掴み、ぐいぐいと引くと、驚いたように顔を上げたナマエは金色の瞳を大きく見開いて瞬きを繰り返す。初めて射抜くように視線通しがかち合い、青い光の点滅する信号機、不協和音を告げる踏切、終わりなく降り続く雨、すべてが一瞬止まったような気がした。



「一緒に来い、ナマエ」



返事も聞かずに手を握って歩き出す。雨に濡れる湿った手の平から少し慌てたように小走りなナマエの歩調の振動を感じる。背中でエースの名前を呼ぶナマエにも何も答えず有無も言わさず道沿いをまっすぐ歩いていき、ひとつのアパートの前でやっと立ち止まった。屋根の下に入り傘を雑に畳んだエースは、ナマエの分も適当に壁へと立てかけて、その横にある扉のドアノブに手をかける。そして、やっぱり唖然と立ち尽くすだけのナマエの腕を掴むと部屋の中へと放り込んだ。



「遅かったなエース、じゃない…え?」



玄関まで出迎えたサボは制服の片袖をやたら濡らしたナマエを見て固まった。続いてエースが入ってくる。自分で連れてきた癖にどういう訳だか不機嫌そうなエースは、さっさと靴を脱いで部屋に上がってしまう。それを見て苦笑しながら、サボは持っていたタオルをナマエの頭へと乗せると、少し濡れた髪を優しく拭いた。わしゃわしゃとかき回される銀髪、大人しくされるがままに身を任せていたナマエはタオルに埋もれながら少しだけ気持ちが良さそうに目を細める。それを見たサボの心臓がとくんっと跳ね上がった。一体なんで、と手を動かすのを忘れて、ナマエの顔を凝視していると、金色の瞳が不思議そうにサボを見上げる。再び跳ねる心臓。そんな自身に思わず閉口したサボは、拭いていた手を止めて、いつまでも玄関に立たせておく訳にもいかずナマエを部屋へと上げた。



「なんで連れてきたんだ」

「知らねえ、なんとなくだ」



ナマエが来たことに大喜びなルフィはここぞとばかりに何かをしきりに話していた(それをナマエが聞いているかどうかは定かではないが)。テレビを見ながらも、そんなルフィとナマエの様子をちらちらと気にしているエースにサボは一人ああ、と納得する。何年も一緒にいれば何となくだがエースの考えていることもわかるし、何よりナマエを目の前にして感じたさっきの緊張は、何も自分だけではなかったということだ。そのことについて、エースが気づいているとは思えないが。どういうわけだか苛々しているエースに、ふうん、と意味ありげに笑ったサボは、身近なライバルに先を越されないよう用心しようと楽しそうに話しをするルフィと、ナマエを挟んで横に座った。







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