──24
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その後──呪縛の縄と、繋ぎ合わせたゼフの帯で、厳重に捕縛したドフラミンゴとシーザーは、お山の外で待機していた世界警察に引き渡した。
背後には陰陽師達と七武怪も控えていたという。
少しでも人界に影響があれば総攻撃する予定だったらしい。
寸前の所で救われた事になる。

先代達指揮の元、妖達の安否確認が行われた。
毒を食らったオイモとカーシーは解毒剤が早かった為にすぐ回復した。

ベラミーは酷い怪我と火傷をおっていたが、命に別状はない。
シーザーとの戦いを小人族が見ていて、爆発の寸前地下に引き入れたらしい。
くれはの所へ入院する事になった。
「──悪かったと、伝えてくれ」
俺に伝言を頼んだと言う。

夜が明ける頃、ナミとロビンが泣き腫らした目でお山を出たらしい。
あいつらも、出会えたのだろう──


狐は3日間、昏々と眠り続けた。
こんなに眠ったのは…前世のあいつが蘇った時以来か。
俺が胸を貫かれる寸前、サンジを止めたのはきっと、あいつだろう。

過去の過ち…繰り返さずに済んだ。
折角平安から平成に生まれ変わったんだからな。
今度こそ俺たちは、ずっと共にある。


下の方は、祭り台でフランキーと大男に化けたチョッパーが太鼓を叩き、ブルックが笛を吹いている。
周りで踊る妖達。ナミとロビンも居る。
屋台ではルフィがどか食いして、ハチとケイミーを困らせていた。

今日は8月16日──お精霊送りの日だ。
お山では毎年祭りを行っている。
狸族と狐族が俺達の代で和解してから、祭りも合同となりそれは盛大なものとなった。

五輪の塔はフランキーが寸分違わず修復してくれた。
五山の送り火は下でも見えるが、ここは特等席だ。
今最後の曼荼羅山、鳥居形松明にすべての火が灯った。

もう何度と見たか解らないが…五山の送り火はいつも言葉を失わせる。
祭りばやしは一旦止まり、松明の火の爆ぜる音だけが響く。
今年は特に、故人と会えた者たちが多かっただけに、送る姿勢もしめやかだ。

「…おれの母親に、会ったんだって?」
煙管の煙が横から流れてくる。
狐の左目は前方の送り火を見たまま。
いつもは隠されている方だ。
髪の分け目を変えて、右目は隠してある。
力を封じる代償として、開かなくなったからだ。

「ああ。お前の事を頼まれた」
フン…と鼻が鳴る音。
「いつまでも子どもじゃねェんだ。大丈夫だっての」
狐は灰落としに煙管をコン!と打ち、帯の提げものから新しい刻みを煙管に詰める。
子どもがスネてるようにしか見えないが…。

狐が目を覚ましたのは、今日の夕刻だった。
祭りの準備でドタバタして、ゆっくり話す時間は無かった。
気を利かせて、ウソップ達がこの最上階を貸し切りにしてくれた。

気配を感じて刀の鞘を鳴らす。
「お邪魔虫は叩っ斬るぞ」
背後に、同じ浴衣姿の外科医が立っていた。
珍しく帽子がない。あったら落ちそうな勢いで頭を下げた。

「お山を犠牲にして悪かった。お前達のお蔭で、敵を討つ事が出来た。ありがとう」
謝罪と謝礼。
ぶっきらぼうな口調だが精一杯だろう。

「ふん、本来ならお前もサツに引き渡してやりたかったが…治療に免じて許してやらァ」
俺達に無数に刻まれた糸の切り傷は、鎌鼬秘伝の傷薬ですぐに治った。
だが俺の左目の傷は深く、眼球を傷つけていた為に失明した。
狐は自分のよりもショックを受けていたが、まったくもって問題ねェ。
命があれば、何とでもなる。

マッチの灯りが一瞬灯る。
「ドフラミンゴはお前が居ても居なくても、いずれお山に乗り込んできた。気にすんな」
クソ、狐が許すと許したくなくなるな。

火の点いた煙管からひと吹きする姿に思わず目を奪われる。
煙管を持つ手というのは、どうしてこうもエロいんだ。
ずれ落ちた袖から覗く白い腕もまたエロい。
水色の縦じまの浴衣は長年着込まれてしっとりと身体に馴染んでいる。
襟足やケツのラインとかやべェ。
思わず涎が落ちそうになる俺の気配を察し、煙が顔に吹きかけられた。

「それより、解せない事がある。あの時、ドフラはゾロの心臓を潰したよな?どうして無事なんだ?」
ローは頭を上げ、説明した。
「狸屋とシーザーの心臓を入れ替えて、ドフラミンゴに渡した。奴の潰した心臓は、シーザーのものだ」
最初から、糸野郎が俺をサンジの目の前で殺す計画を見抜いていたらしい。

ため息交じりの煙が漂う。
「…お前外科医より詐欺師か奇術師が向いてるぞ。──じゃあゾロの心臓は?」
狐の視線に応え、俺は親指で胸を指す。
「回収済みだ」
ホッと眉尻を下げる。いつもはぐるぐるが眉尻だが、眉頭がそうなってるとは知らなかった。
すぐ見慣れたけどな。
巻いてりゃ何でもいい。巻いてりゃ。

シーザーは死んだかと思ったら、ローが心臓を再生手術して蘇生させたらしい。
まぁあっさり死なれるより、たっぷり罪を償ってもらう方が俺たちも溜飲が下がる。
糸野郎も同様だ。

狐が許可したせいで、何が哀しいか野郎3人で送り火を見る事になった。
最初の東山、大文字がだんだん消えて行くのを見て、ローが小さく呟いた。
「平和の炎も…悪くねェのにな」

下の方では、また祭囃子が再開した。
みんな笑顔で、飲んで食べて…この楽園を守れて良かったと心底想う。
それは狐も同じようで、金色の尾をずっと機嫌よく揺らしていた。

◇ ◇ ◇

送り火と祭りの後は、うちの屋敷でどんちゃん騒ぎとなった。
起き掛けで大量の仕込みは大変だったが、元プロ、ジジイが千人力で手伝ってくれた。
ギャーギャー喧嘩になりつつ一緒に調理するのは久しぶりで、ちょっと楽しかったなんてことはないぞ?

配膳は愛しのナミすわんと美しすぎるロビンちゃん、そしてローが例の奇術で助けてくれた。
狸?飲んだっくれて上げ善据え膳がデフォだ。
前時代的亭主関白。あいつ婚活女子に絶対モテねェ。

やっと座って一杯呑んでいると、コウシロウさんがニコニコしながらお酌に来てくれた。
「こうしてみんな揃って宴がまた出来たのは、サンジさんのお陰です。ありがとうございます」
深々頭を下げられ、焦る。
「いや、オレなんか暴走して、みんなを危険な目に遭わせちまって…面目ねェ」
先代は微笑したまま「いいんですよ」と言う。
「君たちの愛を、見せつけられたよ。ゼフ殿も娘さんに会えて心境の変化があったようだよ?」
「ジジイが…?」
「祝言が二つになりそうだね」
ふふふと笑う先代は笑顔の皺が深い。
「二つ?」
「ああ、うちのたしぎの婚約者は世界警察に所属していてね。ほらあそこ、縁側で飲んでる…」

相変わらず可愛い子ちゃんのたしぎちゃんの横に、ゾロよりも大柄なゴリマッチョ。ヤクザ顔負けの悪相…
「ナイナイナイナイ。あれはナイ!先代、お気を確かに」
「いや〜ああ見えてとても誠実で良い男なんだよ。人は見かけじゃないよ?サンジ君」
…こちとら、見かけどころかホモなんですが…。
先代は上機嫌で、ガンフォールにお酌に行った。
今後の事を頼むのだろう。
…狸族の跡継ぎは、心配要らない…か。

次がれた酒をぐびっと煽った。
「ガルチュー」
「ぎゃあ!?」
背後から耳を甘噛みされ、杯を取り落とす。空で良かった。
「てめェ!それ止めろって言ってんだろ!」
両耳を抑えて怒鳴るが、無表情男は何事も無かったかのように右目を指し、
「目、具合はどうだ?」
医者らしい事を言う。

オレは紙煙草を取り出し、火を点ける。
「半時もしたら慣れた。問題ねェ」
「…そうか」
一応責任を感じているらしい。
一息吸って唇横から煙を吐く。
「…お前、これからどうするんだ?」

所属していた組織は解体。
復讐という悲願を遂げても、どこにも居場所はないだろう。
「…特例だが、お山に住まわせてやらん事もないぞ。医者は重宝する」
「異議あり!!」
横からぬるんと割り込んできたのは、こういう時だけ勘が良いバカ狸。


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