─一─
◆◆◆◆◆◆◆◆
ねっとりとした空気に絡まるような息を吐き、唇を深く塞ぐ。
「ん…ふっ…」
金色の耳がへにゃりと下がり、蒼い目が潤みだす。
舌を絡めながら帯を解き、白い肌をさらけ出していく。
「あ…やっ…」
身をくねらせながら恥じらう狐を堪らず押し倒し、いきなり股の間を掴む。
「キャンッ…!」
小さく鳴く声に嗜虐を煽られ、反応していくそれをどんどん追い詰めると、
「はっ…あっ…あ…」
甘い息が耳をくすぐり、欲望の先からチロチロと蜜があふれだす。
それを下まで塗り付け、ひくつく秘部に…
「ひんっ!」
逃げ打つ身体を押さえ、熱い粘膜に指を蠢めかせると、腰が淫らに揺れ始めた。
「ゾロ…もう…」
「なんだ、サンジ」
潤む目が求めているものを知りながら、わざと意地悪く問いかける。
「どうして欲しい…?」
「あ…あ、頂戴…」
「何を?」
「ひあっ…!」
指を曲げ、いいところを掠めれば、薄紅の欲望から蜜がとぷりと溢れた。
狐は耳を震わせながら、涙目で訴える。
「頂戴…!ゾロのおちんぽ、ちょうだい…!!」
「…いいこだ」
俺はベロリと首筋を舐め、指を抜き代わりにいきり立った剛直を──
「あっ…!」
無意識に逃げる腰を掴み、ピクピク震える秘部へと…ついに…
「チェス…トおおおおおお!!」
「──起きろクソ狸ィ!!!!」
「ゴガフグッ!!!?」
腹にもの凄い衝撃を受け、俺は目を掻き開いた。
眩しい。眼球だけでキョロキョロすると、右に裾の肌けた白い足…あ、隠された。
「てめェいつまで人んちで寝てる気だ。さっさと帰れ」
「……なぬ」
痛む腹をこらえ身を起こす。ここは…狐の家だ。
そういや昨夜は深酒して、そのまま寝ちまったんだった。
「まったく…もう泊めねェって言ったのに、厚かましいったらねェ…」
ぶつくさ言う狐を俺は仏頂面で見上げた。
「おいサンジ、ちょっと近う寄れ」
「何でだよ」
「ここ座れ」
自分の膝を指さすと、狐は半目になる。
「その見苦しい朝勃ちの上に座れとな?」
「ああ。さっさと突っ込ませ──」「るかアホー!!!!」
首に強烈な蹴りを受け、俺は障子を破ってぶっ飛んだ。
「いっでェ〜!!!何しやがる!!!」
「うるせェ!!寝惚けた事言ってねェで、とっとと山に帰れバカ狸!!」
鬼の形相でギャンギャン吠える狐に、夢の中の可愛らしさは微塵もない。
──これが…現実か…
肩を落として深くため息をついた。
「何だよ、珍しく反省したか」
サンジが腕組みをして俺を見下ろす。
「せめて夢だけでも野望成就させろよ…アホ狐」
「ああ!?何か言ったか!?」
「別に…。それより昨日言いそびれた事がある」
「え?…ああ、そういや話があるからって上がり込んだんだったな。何だよ」
俺は縁側に胡座をかき、狐をじっと見上げた。
「俺は明日から3日間、姿を現さねェ。だから危ない行動は慎めよ」
「は…?」
「今また、七武怪の誰かが京に来ているらしい。だから街に降りるなって事だ」
「…七武怪がまた…」
狐は顎に手を当て、しばし眉を潜めたが、すぐに生意気な視線を俺に投げた。
「別にお前なんかに心配される覚えはねェよ。前のはちと、運が悪かっただけだ」
「いいから、街には行くなよ。明日から3日間の辛抱だ。寂しいだろうがその時は俺を想って抜い…」
「だ・れ・が!!さっさと帰れバカ狸っ!!塩まぶしてこんがり焼くぞっ!!」
冷たくあしらわれて、俺は狐の家を追い出された。
日はもう高くなり、高く澄んだ秋空に真っ赤に紅葉したもみじが舞う。
「何事もなければいいが…」
狐が強いのは解るが、何せトラブルメーカーなのだ。
俺は思案に暮れながら、ひらひら舞う赤い葉の中を歩きながら帰路についた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【一日目】
昨日狸にああ言われたものの、都合を変更する事は出来ない。
「おーい、ジジイ生きてるかー」
「うるせェぞ、チビナスが」
両手が塞がってるから、病室のスライドドアを足で開けると、
ベッドの上で相変わらずの鬼瓦顔が睨んだ。
ここは妖病棟なので、互いに狐の耳は出したままだ。
荷物をサイドテーブルに置き、オレはわざと皮肉に笑った。
「久々帰ってきたと思ったら、検査入院とか…年寄りは大人しく隠居してりゃいいんだよ」
「やかましい。減らず口叩く暇あったら、とっとと飯置いて帰れ」
鼻息で三つ編みした鼻毛が揺れた。
このジジイは先代当主でオレの祖父のゼフという。
代を譲ってから、伊勢の方で料亭を営んでいたが、帰ってきた早々心の臓が痛むとかで、
ここ、ドクターくれはの病院に検査入院したのだ。
「まったく…それがわざわざ下界まで弁当届けに来てやった孫にかける言葉かね…」
ぶつくさ言いながらも、風呂敷を解いてお重の一段目を開ける。
「煮物に加茂茄子の田楽…あとリクエストの漬物も入れたが、塩分あまり取りすぎるなよ」
「おう、悪いな。やはり食材は京のものが舌に合う」
シワが嬉しそうに歪み、立派な耳がご機嫌に揺れた。
「それなら、京に店作りゃ良かったのに。わざわざ伊勢で隠居しなくても…」
椅子を引き寄せ座り、唇を尖らせると、祖父は再び鬼瓦に戻った。
「京に居ると気忙しくてならねェ。ただでさえ伊勢に居ても聞きたくない噂が流れてくるんだ」
一瞬ギクリと肩を揺らす。
見透かしたような灰がかったブルーの目が、オレを睨む。
「おめェ、狸族当主と随分仲良くやってるそうじゃねェか」
──きた。恐れていた事が。
オレは精一杯しかめっ面を作り、ふんっと鼻息を飛ばした。
「あのバカ狸が勝手にオレになついているだけだ。迷惑千万だっての」
「毎晩飲み明かしてるそうじゃねェか」
「なっ…!毎晩じゃねェよ!!時々…つか誰から聞いてんだよンな事っ!」
「曾下の坊ことウソップだ」
──あんの、クソお喋り天狗〜〜〜!!!!
顔を真っ赤にして憤怒するオレを横目で見て、祖父は軽く息をついた。
「まぁ…狐族と狸族が敵対していたのは江戸ぐらいまでだし…おれも狸族先代とは親交がある。仲良くする分には構わないが──」
光る目が鋭くオレを射抜いた。
「情だけは交わすなよ」
「なっ!!?ボケた事言うなクソジジイ!あいつもオレも雄だぞっ!?」
「だが狸の小僧はお前とそうなるが為に迫ってるんだろうが。
いいかサンジ。お前は次期当主として然るべき雌と結ばれ、狐族の繁栄の為に…」
「あああもう!見当違いのお説教ならオレぁもう帰る!」
立ち上がりドアを開けた背に、ジジイの低い声がかけられた。
「早くひ孫の面、拝ませろよ」
病院を出ると、慌ただしい街中の空気が出迎えた。
山と違い、季節感を感じるには京は随分様変わりをしてしまった。
オレはタバコを取り出し、苛立たしく火を点けた。
「…分かっちゃいるさ…でもよ…」
狐族の雌は、雄よりも多淫だったりする。しかも何故か人間の雄を好み、多くは山を下りて人間と生活を共にしている。
よって雌を見つけたけりゃ下界に降りるしかないのだが…
オレも人間の雌が大好きだし、イマイチ定まらないのだ。
それにまだ身を固めるにゃ、早すぎるだろっ。
「と、いうワケで、レッツナンパだ〜♪」
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