ケンレン(みおさん)1



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1クールのドラマ達が続々と最終回を迎え、特別番組ばかりが流れるようになった。
蓮は特にテレビを見るわけでは無かったが今日という日にクラスメイトの女子達がざわめいている理由はなんとなくではあるが予測がついていた。
「予約した?」だとか「絶対リアルタイムで見る」などという会話のやり取り。その中に時折混ざる『真嶋健悟』という人物の名前。
話題となっているのは本日21時より二時間枠で放映される二夜連続放送のドラマの事だろう。
そこに健悟が出演するという事は蓮も当然ながら知っていた。
朝に見かけた新聞のテレビ欄には『源氏物語』と記載されており、勿論出演者の一覧の中には真嶋健悟の名前。
源氏物語というタイトルによって机の中に眠る国語の教科書の暗号のような古典の文字列を思い出し、ほんの少しうんざりする。
題材を耳にした事はあっても、内容をよくは知らない。古典の授業は教師の朗読を聞いているうちにすぐ眠くなってしまうのだから内容なんてわからなくて当然だ。
だから一体健悟がどのような役柄で登場するのかよくは知らない。主演では無いという事ぐらいだ。
眠くならなければいいけど、と思いながら薄っぺらいスクールバッグを手に取った。





「なあ」
「んー?何?」
「源氏物語ってどんな話?」
「……どうしたのれんちゃん、急に」
おぞましいものでも見るかのような視線が蓮へと向けられた。
まさか下校途中に蓮の口から勉強を思わせるような言葉が出てくるとは夢にも思わなかったらしい武人の反応がそれだ。
「……べつに、特に意味はねーけど」
「いやいやいやいや!だってれんちゃん、君が今口にしたのは勉強?古典?だよ?どういうこと?ねえ、どういうことなの?蓮ちゃんが未だかつて、テスト前でも何でもないこの時期に勉強に関わる単語を口にした事があっただろうか?否、ない。」
「ほーう、そうきますか」
明らかに小馬鹿にされているのを察知し、蓮は武人の膝裏に蹴りを一発入れてそのまま武人を置いてスタスタと道を進んだ。
「れーんちゃん!ごめん!ごめんって!」
「うるせえ、しゃべんな」
離れていた距離は武人が少し歩調を早めただけですぐに縮まり、再び武人は蓮の真横に並んだ。
「今日やるやつっしょ?……出てるんだっけ?あのひと」
「…………」
分かっているなら聞くなと心の中で悪態を吐きながら蓮は武人に冷たい視線を送りつける。
「あーっと、えーっとねえ、掻い摘んで言えば光源氏がロリコン!」
無駄に声を張り上げた武人のどうしようもない言葉が車一つ通らない田舎道に響いた。


「………もういい。お前に聞いたのが間違いだった」
「絶対的を得てるとは思うよ!絶対そうだよ!?」
「マジ黙って。頼むから」


武人の説明にもならない源氏物語の要約はさておき、蓮は多少なりとも知識を入れておくべきだったかと小さく舌打ちをした。
教科書は勿論手元に無いし、今から読んだところでどうせ理解は出来ない。
ドラマなのだから原作を知らない人間にも分かる様には出来ているだろう。
健悟が一体どのような役柄なのかを知らぬままでも恐らくは楽しめるだろうと、21時から始まる放映を待つこととした。明日には健悟が五十嵐家を訪れる事だし、たまには面と向かって感想を言ってやるのも悪くない。そう思いながら。







あきゅろす。
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