「あっ! 宗像ここに居たぁーお客さん来てるよー、店」
 散々家中を探したらしい羽生は、漸く見つけたと言わんばかりに宗像の腕を取る。
 しかし、それに対して動く様子も無い当人も、酒瓶の本数が若干減っている気がするこの部屋も、約一名の存在が消えたこの空間も、羽生に疑問点を抱かせるのには充分過ぎるものだった。
「あれぇ? ていうかれんちゃんはー?」
「…………」
 未だ風呂上りで濡れている髪をタオルで擦りながら、羽生は持っていたドライヤーのプラグを勝手にコンセントへと挿し込んだ。
 先程まではそのドライヤーを用いて、ブリーチで傷んだ金色をわしゃわしゃと愛でていただけに、当の本人が見当たらない部屋には首を傾げることしか出来ない。
 質問をしているというのに全く動作を見せない宗像の耳元で、わざと、ぶぉん、とドライヤーをオンにしてみる。しかし、いつもならば罵声が飛んでくるというのに、今回ばかりはハッと顔を上げ、ただ羽生へと焦点を合わせるだけに留めているようだった。
「宗像?」
 当然その様子は訝しむには充分なもので、羽生はドライヤーをオフにして、眉を顰めながら問う。
 しかし、返って来たのは溜息のみで、不自然に額に手をついて塞ぎ込んでいるようだった。
「……や、オマエ居なくて良かったよ」
「はぁ? なに言ってんのおまえ、だいじょーぶ? ていうかおまえお客さんいーの?」
「…………」
「つーか酒減ってない? 気のせい?」
「……どっちも、持ってかれた」
「はあ?」
 まるで話す事が精一杯だとでも言うような宗像の様子には、訝しむような視線を送ることしか出来ない。
 羽生はますます訳が分からないと言うように再度ドライヤーをオンにすると、今度はただひたすら、無言のままに後頭部への衝撃を喰らったのみだった。



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あきゅろす。
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