「だいたいこんなのいいトコだけ信じりゃ良いんだって。あー、ほらこれ、これいいじゃん。遠恋カップルは他のカップルよりも絆が強いと思う。ほとんど百パーでしょ」
 もう一度特集ページを開いて指差した健悟に、それも最もだと蓮は小さく頷いた。
「あとこれ? 久しぶりに会うと大切さを実感するも100%。これこそすごくない? 蓮もこういうの信じりゃいいのに」
「悪かったなネガティブで」
「だれもそんなこと言ってませーん。見た?」
 視線で促されて、蓮は頷いた。
「はいじゃあもうポイしちゃえポイ」
 すると、健悟は片手で雑誌を折り曲げて、そのままごみ箱にぽいっと捨ててしまった。
「おま、それ利佳の!」
「いーから」
 立ち上がりそうになる蓮を阻止して、その身体を大人しく膝の上に戻す。
「で、こっち向く」
「…………」
 うら、とわざとらしい掛け声をあげた健悟が蓮の顔を上げさせると、至近距離だからか真っ黒い双眸に自分だけが映っていて穏やかな気持ちになった。
「最後のアンケートね、久しぶりに会うと〜ってやつ。あれあながち嘘じゃないかもね、いますげーれん好きすぎてやべぇもん」
「なんだよ、それ」
 本心を告げながら抱き締めると、細い身体の骨が当たって、折ってしまいそうで恐くなる。
 自分が蓮の実家に住んでいたときよりも痩せた気がするのは、もしかしてそれだけ心配をかけていたせいなのだろうか。そう思うと少しだけ罪悪感が募ったけれど、それ以上に、たかだか自分ひとりの存在が蓮に影響を与えていることが愛しくて、嬉しかった。
 蓮が大学生になれば、近い未来に毎日一緒に居れる幸せを描くだけで心が温かくなり、カメラの前では決して見せる事の出来ない顔になっている事が分かる。
「あーれんだーって思うだけで、なんかもうやばい」
「…………」
 堪え性の無さと情けなさに自分を笑い付ければ、そんなことないとでも言うように蓮からも抱き締められた。
 たったそれだけで今ならば何にでも勝てる気さえする。今日はあんなに疲れて帰ってきたはずなのに、今は寝るのが勿体無いとおもう。蓮と一緒に居たくて、離れたくなくて、ずっとこうしていたかった。
「なんか、仕事の疲れ吹っ飛ぶとかマジであんだね、初めて知った」
「んな、俺来ただけだし……なんもしてねえ」
「ばか、それが嬉しいんじゃん」
 蓮は違うのと小さく紡げば、突如、絶対わざとだと思えるような力で抱き締められて、骨が軋んだ。
「いててててっ、あははっ」
 言葉に乗せることが恥ずかしいらしい彼の最大の譲歩は、痛みさえ飛ぶようで、込められた意味に小さく頷いてから、蓮の耳に唇を寄せた。
「……来てくれてすっげえ嬉しい」
「、」
 囁くように言えば、同意の声よりも先にもぞもぞと動いた蓮が少しだけ躊躇ったあとに頬にキスを残してくれた。
「マジで逢いたかった」
 柔らかい感触を頬に残したままに抱き締めると、一段と香水の香りが強くなる。蓮の部屋にある同じ香水をつけてきたに違いない、それなのに若干違う気がするのは正真正銘蓮の匂いが含まれているからで、余計に下半身を意識したくない事態に突入してしまった。
「でさ、そろそろ我慢限界なんだけど。もう、ちゅーしてい?」
「…………すれば」
 ぶっきらぼうにそう言いながら少しだけ顔を寄せてくるものだから、我慢できるはずも無く唇を重ねに行く。
 押し付けるように、ふにっと柔らかい感触を楽しんでから、同じタイミングで啄ばむように角度を変えて行く。
「れん。べろ。入れたい。」
「っ、」
「あー」
 舌出して、という意味で自らの舌を出して誘導したというのに、予想外に蓮から近付かれて、舐め取られた舌からぬちゃりと卑猥な音がした。
 わざと目を開ければ恥ずかしそうにぎゅっと目を閉じる姿があって、たまんない、とこっそり舌なめずりをする。
「…………んっ、」
「ん、いいコー」
 両手で蓮の首と頭を撫でながら、角度を変えて咥内へと侵入していく。
 口から息は吸えないほどにぴったりと重ね合って、もっと奥まで侵したいと歯列を撫でていく。舌を絡め合わせて濡れた音がしてくれば、その唾液を吸って飲み込む。ばか、と小さく叩かれたけれど、もちろん気にすることなくもう一度唇を合わせていく。
 長い長いキスのあと、お互いが空気を欲するように、すうっと息を吸う。
「……あは、やべえ。シアワセ。」
 そして、ぎゅっと蓮の頭を抱えて抱き締めながら言えば、腕の中から小さな返答が返ってくる。
「………………おれもだよ。」
「だよねー」
「だよねってなんだ」
「ははっ」
 ぽかっと背中を叩かれる。そんな小さな言動すら愛しい。蓮からだったら何をされても良いと、そんな馬鹿なことを本気で思った。
 明日になんないで、今日だけがずっと続けば良いって、蓮がこの部屋から居なくならなければ良いって、そんな馬鹿なことを、本気で思った。



「れんー、ご飯食べんのもう少し遅くなっても良い?」
 申し訳ないけれど、蓮が大好きだと言うこの顔を利用してわざと上目遣いで覗き込む。
 直接目を見ながら気障っぽく手に口付けて、ちゅっと淫猥な音をさせたのは、わざと。先の行為を予感させるように、蓮の背中に入れた手をするすると滑らせれば、仕方ないとでも言うような微かに笑った声が聞こえた。
「……っ、………………ドーゾ」
「やった」
 そして、夕食が朝食になる予感を胸に秘めながら蓮の背をソファーへと預け、もう一度キスをした。




おわり。



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