一日の終わりを告げる全国共通の長い音色が空気を震わせると、辺りが騒めく中で武人が蓮の机へと翔けてくる日常。
 こんな時、蓮は何時も机で熟睡しているかぼうっと空を眺めているかのどちらかだったが、今日に限ってはそのどちらにも当て嵌まらなかった。
 普段は邪険にしている携帯電話に指を置き、ゆっくりと文字盤を操作している。神妙な顔をして何をしているのかと武人が覗いてみると、どうやらメールを打っているようだった。
「蓮ちゃーん。帰ろー」
「んー……、おまえ今日先帰ってて」
「え。珍しい、呼び出し?」
「ああー、……うん。まぁな」
 誤魔化すように蓮は髪を掻く。呼び出しといえば呼び出し、待ち合わせといえば待ち合わせ。詳細を言うことが出来ないからこそ、曖昧に流してしまいたかった。
「そっか。じゃ明日ねー」
「あ、武人。明日の朝も、あー……別になるわ。ちょっと、用事あって」
「、蓮ちゃん?」
「ワリ、頼むわ」
 武人が疑心を顕に表情を崩すことも仕方がないことで、蓮も武人もどちらか一方が彼女を作ったときでさえ登下校は一緒にしていたからだ。
 早朝の日直や先生からの呼び出しでも無い限りずっと一緒に過ごしていたからこそ、武人は珍しい事項に首を傾げながらも学校を後にした。
 蓮はその背が何事もなく消えたことに安堵してから、再び受信メールに目を落とした。宛名の欄に表示された名前はなく、たった一つの絵文字が存在を主張している。
“今日ちょっと遅くなりそうだから先帰ってて良いよ!家まで迎え行くね。ごめん。”
 余計な絵文字が入る隙も無い、謝罪が素直に伝わる一通のメールを見て、蓮の口角が若干ゆるりと上昇を見せた。
 さらりと流れる会話の中で取って付けたような約束だったが、如何やらしっかりと生きてくれていたようだった。



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