「つーかこんなとこでアイス食ってて良いの、撮影がどーだこーだって健悟のことでしょ?」
「ん? ああ、とりあえず一旦解散。別に撮影急いでないし暑い中倒れられても困るからって。学校が夏休み入るらへんから本格始動だってさ」
 アイスをかじり、あちー、と呟きながら、健悟は何事もなかったかのように言った。
 蓮からしてみれば、撮影の詳細は全くの不明だが、その話ぶりからして随分緩いんだな、と感心してしまう。
 アイスを食べながら手で己を扇いでいるだけだというのに、充分なまでに格好良い健悟の姿。その姿を一目見ようと足を運ぶ人は、夏休みだからといって関係はなく大勢居るんだろうと簡単に推測できる。
「ていうか知ってたんだ、撮影のこと」
「うん。朝友達からメールで呼び出されたんだよね、体育館来いーっつって。集会かと思ったら皆たむろっててビビったもん」
 体育館を思い出しながら、ちらりと横目で健悟の指を追えば、変わらず左右合わせて5つの指輪が見えて、やはりあれは健悟だったのだろうと再確認した。
 学校で撮影が始まることも、そこに健悟が居たことも、健悟の髪が真っ黒だったことも、蓮が驚嘆したことは沢山あったが、いちいち説明することで俗嗜好だと思われたくはなかった。
「やっだー皆見に来てくれっかねー映画」
「無理だべ」
「うそ、そこは御世辞でも行くって言おうよ」
「だってここら映画館ねぇもん、隣の市まで出なきゃ」
「……それは想定外」
 自転車で遠く離れた駅まで行き、そこから4時間に1本の電車の乗り換えを数回。
 映画館が何処にあるかも分からない蓮は当然見に行くつもりはないが、本気で健悟を好きな人ならその距離も苦ではないのかもしれない。朝の涙を思い出せばそうすんなりと受け止められた。
 想定外と呟いた後、なにやら思案を巡らせ続けている健悟に、田舎なんだから仕方が無いと伝えるが、納得のいかなそうな表情は晴れることがなかった。
 難しそうな表情を見て、話題を変えようと思った時、ふと、羽生との会話を思い出す。
「つーかそう、なんでうちのガッコ?」
「……え?」
 それは、こんな特徴もない学校を何故映画に起用したのかという純粋な興味。
 取りたてて自慢できるものもない学校が、全国の中から選ばれた理由など一切想像できず、蓮には其処がとても引っ掛かっていた。
「なんか聞いた話だと、うち人少なくて部活無いしさ。夏休み体育館使えるからって聞いたんだけど。そーなの?」
「……あー……」
 しかし、蓮が問うた途端に健悟は目を逸らし、誤魔化すように首を傾げてしまった。
 なにかを言い淀みながら苦笑いを向けられたことに対し、蓮の頭には、もしかして映画にでも関係あるから他言無用なのか、との勝手な解釈が頭に浮かぶ。
同時に、もしかしたらそれは聞いてはいけない事だったのか、ということも。
「や。でもまぁ、こんなトコでやるもんなんだねっていうそれだけなんだけどさ。田舎の癖にあちーし、中途半端だし?」
「ん……まぁ、ね。」
「……?」
 “芸能人”に聞いて良い質問の線引きが分からないが、言えないことを無理に言わせてはいけないと思い、話を流すように終極へと向かう。
 てっきり、そんなことねーよ、と笑う健悟を想像していたのだが、重々しい顔をして頷くから。其の寂しそうな表情の意味が分からず、今度は蓮が首を傾げるしかなかった。



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