7
宗像と別れ、一人で歩く畦道。
武人と居る時は気にならない風景も、一人で見る途端に嫌な現実を痛感させるから、蓮は一人で帰ることが嫌いだった。
「……」
広大な自然の中に立つ自分が小さすぎて、世界に取り残されているかのような、酷い虚無感。
“……こんなトコとか、言うなよ”
しかし、健悟は昨日、この自然を見て綺麗だと微笑んでいた。
自然に負ける事無く堂々と生きている姿が羨ましいと思うのは率直な意見で、ああいう横顔を格好良いと云うのだろうか。
映画の主役と云うからには、無数のスポットライトを浴びて、楽しそうに演技をするのだろう。一秒一秒を楽しそうに生きるんだろう。
それでも、健悟が頑張っているだろう時間にも、暇を持て余しながら畳の上で爆睡し利佳に蹴られる己の姿が容易に目に浮かんでくる。
その差を想像することで、昨日は近付いたと思った距離が一気に離れて行った気がした。
「……世の中色んな人がいるっつーことね……」
狭い世界で生きていた蓮に訪れた、大きすぎる刺激。
たった1日とはいえ泥棒からお客に変化し、お客から友達に昇格しつつあったはずだった。
友達や家族以外の人物と一緒の夜を過ごしたことは本当に久しぶりで、確かに楽しかったはずなのに。
それが、あれだけ騒がれていた有名人らしいのだから、もう会うことも無いだろうと溜息を吐きその想いを払拭するしかない。
溜息一つ。
こうしてる間にもどんどんと開いていく差が、なんだか歯痒すぎて、どうにも悔しかった。
健悟が綺麗だと言った風景も、自分が虚無を感じた風景も、いま何も視界に入れたくない。
そう思った蓮は、慣れない携帯を取り出し、今にも電池の切れそうなそれに視線を落としながら、足早に帰ることにした。
「ずりぃなぁ……」
そう呟いた言葉が、何に対してなのかは、蓮自身も分からなかった。
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