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※戦争表現がありますので苦手な方はプラウザバック




あなたはわたしを見て、何を思いますか。あなたの優しさに甘えて二度もあなたを一人にして。そしてまたあなたを傷つけて。泣きたい泣きたい泣きたい、だけど私が泣くのはお門違い。



戦争が始まった。兄上は真っ黒な軍服を身に纏い、わたしのまえに現れた。そのころにはもう、わたしは琉球という名前は捨てられ沖縄と名乗るように言われていた。

「沖縄、中国さんと戦争することになりました。これよりあの方との関係は一切不要です。切り捨てなさい。それから私はこれから中国さんの元へ赴きます。何か言っておくことはありますか」

兄上の言葉に自分の耳を疑った。兄様と、戦争する?関係を、絶つ?それは、冗談ではないのですか。喉から出かかった言葉は目の前にいる兄様の黒い軍服と、幾分か深く黒くなった瞳を目にして、逆流した。これは、冗談なのではないと。兄上は本気で、そして単身でこれから中国に乗り込むのだと。そんなこと、わかってしまったのなら、もう告げる言葉は一つしかないではないか。

「それは…わざわざ足を運ばせてしまって申し訳ありませんでした。兄上のお言葉です、私はそれに従いましょう。中国さまに、言葉ですか。そうですね、私にはあの方に特に伝えたい言葉は持ち合わせておりません。道中お気をつけて、戦果を期待しております」
「そうですか、なら私はこれから出ます。留守を頼みましたよ、あなたは沖縄でもあり、日本でもあるのですからね」

兄が出ていった襖を黙って見つめた。なんだ、あんなにも簡単に言えるものなのか。やはり自分も、国なのだ。(あんな、兄様を乏すような)瞬間、ふっと力が抜け、畳みに寝そべった。畳みは、昨日新しいものに張り替えたもので、まだ新しい、青々しい香りがした。(みんな、壊れていく)瞳から、涙が落ち、畳みに消えない染みを作った。




しばらく何度か大きな戦争が続き、もうしばらくして後にWW2、第二次世界大戦と呼ばれる戦争が始まった。

「兄上、わたしも出ます」
「いけません。あなただけはあのような場に出させるようなことはしません。」
「しかし、わたしの土地が荒らされているというのに、わたしが出ないというのは…!」
「私は、中国さんと約束したのです、あなたをもう二度と傷つけないと…!」

兄上の言葉を聞いて、畳みに染みを作ったときと同じ涙が流れた。ほら、やっぱり、わたしたちは家族だよ、兄上。今わたしたちは敵同士なんだよ、敵の言葉には耳を傾けるなといったのは兄上なんだよ。だから、

「なら、わたしは戦場へ出るべきはずです」
「沖縄!」
「…兄上、中国さまは今や敵なのではないのですか。敵の言葉に耳をかすな。兄上の言葉です。わたしを戦場にだすなというのなら、出るなというのなら、わたしは喜んで戦場を駆けましょう、人を傷つけましょう。あの土地はわたしです。兄上、お願いします。わたしを、戦場へ出させてください」

兄上の顔が酷く歪む。それは、他国から受けた傷が痛むからですか?それとも、そんなにわたしの言葉が気に入らなかったからですか?前者でも後者でも、どちらでも構いません。わたしは、兄上の役に立ちたいのです。

「…沖縄」
「はい、兄上」
「戦場にて、敵を殲滅なさい。土足で踏み荒らすような輩は、」
「わかっております。では、わたしはこれから本土に戻ります。わたしに何かあっても、兄上は振り返らずお進み下さい」

「…兄上、さま」
「はい」
「お慕いしております、兄上様。わたしはいつでも、あなたさまの味方です。」
今にも壊れてしまいそうな兄に一言告げ、わたしは戦場へ赴いた。


戦場は、想像を絶するものだった。戦火に逃げ惑い、家族を嘆き、恋人を嘆き、死への恐怖へ嘆き、わたしは言葉を失った。そして、兄上にどれほど感謝しただろう。わたしをこのような場所へ赴かせないよう、上司に逆らい自分を追い詰めた。そして、兄様との約束を守ろうとしてくれた兄上に目頭が熱くなった。ありがとう、ありがとう兄上。ありがとう、ありがとう兄様。

「わたしの地へ土足で踏み込むとは、いい度胸をしているなアメリカ」
「君は、琉球…かい?」
「琉球ではない、わたしはっ日本!沖縄だ!!」

刀と銃がぶつかり合う。接近戦でも、遠距離戦でも、有利なのは銃だ。しかし接近戦ならばまだ勝算はある。弾かれるな、弾かれるな弾かれるな弾かれるな弾かれるな!腕に目一杯の力を篭めるが、それも虚しく、簡単に押し返され、そのまま組み敷かれる。(この人は…)わたしの額に銃をあてると目の前のアメリカさんは、ぽつりぽつりと呟きだした。

「君も、日本も、どうしてそんなになるまで戦うんだい」

それは、あなたたちがわたしたちの家を壊すから

「どうしてそんなに、踏み込まれることを嫌うんだ」
それは、わたしたちにあなたは必要ないから

「どうして…どうして、そんなに強いんだ」

それは…、

「おしゃべりは終わりですか。情けは無用です。撃ちなさい」
「それは出来ないんだぞ」
「わたしは敵国ですよ、撃てなくてどうします」
「…琉球、いや沖縄には捕虜になってもらう。」
「!」
「こちらには、君が望んでいなくても、君を望むやつがいるからね」

ああ、ああ兄上。ごめんなさい、ごめんなさい。兄上にこのことはすぐに伝わるだろう。だけど、どうか、わたしを振り返らず、お進み下さい。わたしは、あなたさまだけなのです。兄上、兄上さま。



目を開くと、そこは見たことのない、真っ白な天井だった。いつもの木製の天井ではなく、白い。体を起こすとそこら中に包帯が巻かれ、左目まで覆われていた。すぐ横の棚に置かれた刀に目がいき、どうせこのまま捕虜になるくらいならば潔く腹をかっ捌こうと刀に手を伸ばした。が、やはり片目だけでは距離感が掴めず、わたしは刀ではなく、近くにあった花瓶を盛大に倒した。大袈裟な程の音が響くと、廊下をばたばたと走る音が聞こえた。ああ、誰かが来る。そう目を閉じた瞬間、懐かしい声が響いた。

「何事ある!」
「に、いさま…」
「沖縄!目を覚ましたあるか!?」

部屋に来たのは、兄様で、わたしは一体どうすればいいのかわからなかった。もう二度と裏切らないと言ったのに刃を向け、敵国として、捕虜としてこんなボロボロの身なりでの対峙に酷くうろたえた。目も録に合わせることが出来ず、わたしは目を伏せた。

「兄様…」
「まだ、兄と呼ぶあるか」
「…っ、すみません。今や敵国でしたね、お忘れ下さい、今のは…」
「そういう意味じゃねえある!」
「は、」

顔をあげれば今にも泣き出しそうな顔は、数年前、兄上に連れられて日本帰った日と同じ顔をしていた。

「我は日本に、あれ程二度とおまえを傷つけるなと言ったのに、今度は我がおまえを傷つけた…こんなに、なるまで…!それでも、それでもおまえはまだ我を兄と呼んでくれるあるか…」

兄の言葉に、また、涙が流れた。この人はどうして、どうして自分がどれほどに傷付いているのに気がつかないフリをするのだろう。どうして、

「兄様、わたしは、あなたを裏切ったのですよ?これくらい、傷ついて当然です。当然の報いなのです。」
「馬鹿いうんじゃねーある、おまえは本当は傷つかなくていいある。本当は、本当は、」
「兄様、わたしは兄様を傷つけたのですよ?なぜ、それなのになぜわたしに構うのですか!!わたしはあなたを傷つけたのに!裏切ったのに!」
「それは、」

どれだけ自分が傷ついているのか認めない兄に腹がたった。わたしは、わたしはあなたを傷つけたのに、裏切ったのに、あなたを傷つけて裏切ってこんなに傷ついたのに!

「我は沖縄、そして日本のにーにある。おまえらにどれだけ傷つけられてもいい、それを受け止めるのが兄ある。けど、兄は弟や妹を傷つけちゃいけないある、守らなきゃいけないあるからな。だから沖縄、そんなに気に病む必要なんてない、糸を解くよろし。ああ、そうあるな、わなこ、泣いてもいいあるよ。にーにがずうっと傍にいるある。」

本当に、本当に馬鹿で、どうしようもなくて、いつも、いつもいつもいつも

「に、にーに…にーに…!」

温かかった、兄様は。温かかった、兄上は。わたしは二人が大好きで、大好きで、子供だった。

兄様に頭を撫でられながらアメリカさんに、どうして強いのか聞かれたことを思い出した。それは、

「兄様、わたしと兄上は亜細亜が好きなのです」
「誰にも踏み込まれたくなかった、兄様と、兄上と、韓国と台湾と香港と、それだけで、ただそれだけでよかった、他は何も要らなかったのです、だから、兄上は兄上で亜細亜を守ろうと、みんなでっ…」
「知っていたあるよ」

「何年兄弟やっていると思っているある。我は、おまえも日本も、誰も恨んでないあるよ、」
「兄様、」

「さあ、わなこ。もう一度寝るといいある。次に目が覚めたときは、一緒に日本を迎えに行こう」



その数日後、兄上…日本は降伏し、わたしの隣にあったベッドには兄様が運ばれた。





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あきゅろす。
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