セキくんご自慢の白身魚はムニエル的なアレで非常に美味だった。央は大陸のど真ん中にあるせいか、滅多に魚は食卓に並ばない。主食にパン的な何かが添えられてるし、魚はなんか懐かしいバターの味がして、俺はもうご機嫌になってしまった。夢にまで見た洋食じゃねーのコレってば!北方最高!
「こりゃうめーな! セキくんこれ美味しいよ!」
「良かったねぇ」
「なんだ、陽太はこっちの食事が好みか」
コウの酒もワインらしきものだ。北方と央では気候だけじゃなくて食文化も全然違うんだな。
「なぁなぁ、属国のご飯ってさ、どこもかしこも央と違うの?」
「そうだな。どこの国にも特徴がある」
「へぇえ! じゃあ俺、全部食いに行きたい!」
「……」
コウは呆れ果てた顔をしているが、俺が食欲全開になるには理由がある……なんせ央には楽しみが少ないんだよね。平成っ子の貪欲さってやつだ。
セキくんは呆れた顔も見せずに、俺に南方のエキゾチック料理の話をしてくれた。ふむ、話を聞いてる限りではタイっぽい気がするな。
いつもは一人、もしくはコウと二人の食事だから、セキくんが加わっただけでもすごく話が弾む。つーか……コウはいつだって支配者オーラを垂れ流してるから……心安らぐって感じじゃないわけだ。セキくんは逆に従者オーラ全開だけどな。
フルコースの食事は滞りなく終わり、デザートの果物タイムがやってきた。食事は毒味係がいるが、果物をいちいち毒味することはない。以前ユーイから聞いた話だが、何代か前の皇帝が切り分けた果物に毒を盛られて殺されたらしく、それ以降は皇帝が自ら切り分けるのだそうだ。
いつもはコウが皮とかを剥いてくれるんだが、今日はセキくんが……これなんだろ、イチゴっぽいリンゴみたいな果物の皮をナイフで剥いている。
「コウさ、この後も仕事?」
「ああ。これから外に出るが」
「マジで! 俺も行く!」
央ではお出かけの機会など与えられなかった故、逃してなるものか、とばかりに挙手で主張してみた。
「視察だ。つまらぬぞ」
「俺も視察するもんね」
コウはセキくんから切り分けられたイチゴっぽいリンゴを受け取ると、それをそのまま俺の口元に……おいおいコウ様よ、ここは朱夏宮じゃないんだぜ!食うけど!おお、なんだこれ味はライチっぽいぞ!
「外は寒い。もう一枚、皙に外套を貸して貰え」
「わかった。セキくんよろしく〜」
咀嚼しながらちらりと正面に視線を移すと、そこには目を丸くしているセキくんがいらっしゃった。ああ……コウの餌付けっぷりにビビってんのか。
「あ、ええ、はい、承知致しました」
セキくんは挙動不審気味に俺から目を逸らし、侍女さんに目で合図を送っていた。くそ、やっぱあの餌付けは禁止にしてやっぞ!