信じられん。まったくもって信じられん。
天主様は御歳せんよんひゃく……数十才になられるのだと言う。見た目はまだまだ若々しく、コウと同じくらいに見えるそうだ。そして聞いた範囲だと、やっぱり天主様は神様とよく似た地位にいるみたいだ。この世界の色んな事象は、天主様の意向だと受け止められるのだと言う。
そして何やら面白おかしい人物……人物か?まぁそういうお方らしく、コウ曰く「顔を合わせれば喧嘩になる」んだそうだ。皇帝のくせに……オトナゲねーな。
つーか14世紀半も生きてるってのがバケモノじみてるっつーか……いや、ここはファンタジーワールドだ!現人神がいたっておかしかぁない。もうそろそろ何が起きても冷静な俺でいたい!
あーもう、城に帰ったらユーイにきっちり教えてもらわねば。あいつ、しっかり者のくせに……結構重要なことを教え忘れてんじゃねーかよ。
「はぁしかし……やっぱ、すごい世界だなぁ」
「早く慣れろよ」
「……簡単に言うなよ」
慣れろったってなぁ。こんなファンタジーワールドに慣れたら俺、いざ地球に帰った時に大変じゃないか。
つーか……俺、どうやったら帰れるんだ……。そうだ、天主様がご存命だってんなら、会う機会があったらぜひとも聞き出してみよう。
コウやユーイは親切にしてくれてるし、この世界で快適に暮らさせてもらっているとは言え、だ。いくら俺が『鳥』と呼ばれる存在なのだとしても、やっぱりここは異世界で、俺のいるべき場所ではないと思うし。
俺は案外……というか、物凄く図太かったらしく、あんなに怯えていた翼龍の上でうたた寝をかましていたらしい。風景が山と森ばっかで途中で飽きたとはいえ、あの恐竜に乗っててうたた寝とか……マジ有り得ない。緊張感がなさすぎるだろ、俺……!
そんなわけで、背後のコウに頬をひたひたと叩かれて飛び起きた時には、そこはもう、一面銀世界の北方国だったのだ。
俺は年に一、二度しか雪が降らない温暖な土地に住んでたから、ここまで見事な雪景色を見るのは初めてだ。
「うっわ、雪だ!」
またしてもコウに降ろしていただき、雪の上に足をつける。見た目より全然柔らかいその感触に、俄然テンションも上がってくる。わーっと駆け出して雪の上にダイブしたり、雪玉を作ったり……と地味な一人遊びを楽しんでいたのだが。
「皇帝陛下!」
見知らぬ声が遠くから聞こえて、雪玉作りの手を止めた。
声がした方向に顔を向けると、毛皮帽子に毛皮マントの男がこっちに走ってくるのが見える。
おお、もしやあれがコウの弟くんか!つーか!小さくない!?
「陛下! お久しぶりでございます!」
「皙、久しいな」
セキ、というらしい男ーーまぁ小さいとは言え比較的って話で俺よりは大分でかいが、そのセキさんは顔を紅潮させながらコウを見上げて。
「それで、夏宮様はどちらに」
ああん、なつのみや?
……って夏の宮か?
夏の宮と言えば確か……。
「あれだ」
コウが指差したのは、案の定、全身雪まみれ、手には雪玉を握る俺だった。