毛皮帽子に黒マントは俺の分も用意されていた。北方の王都は一年の半分は雪に覆われている極寒の地らしい。世界の中心にあるというこの暉黄城は一年を通して過ごしやすく、春が半年、秋が半年といった具合の気候が続くと言う。あんまり意識してなかったけど、確かに半袖でも長袖でも心地よく過ごせそうな気温だ。まぁ、さすがに毛皮帽子と黒マントは暑苦しいけどな。
「翼龍だっけ、あれってコウしか乗れねーんだろ? 俺たちだけで行くの?」
「いや、近衛が四名同行する。翼龍はよく言い聞かせれば他の人間も乗せるからな」
「ふうん」
いやぁ、コウはなんでも出来るんだな。さすがは皇帝陛下だ。つーか、あの恐竜との会話ってどんなんなんだろう。ハッ、もしやコウは犬猫とも喋れたりすんのか!おおお、羨ましすぎる……後で聞いてみよう!
最初にこの城にやって来た時に入った門だろうか。門を守る兵士二人に頭を下げられながら外に出ると、初日にチラッと見た……確かチュウゴさんと、三人の戦士っぽい人たちが見るも恐ろしい三匹の翼龍のそばで待っていた。こっちに気付くと、さっと礼を取る。
「よし、では参るか」
「はっ」
恐る恐る、コウの後ろにくっついて翼龍のそばに向かう。鞍や手綱も装備されていて、前に乗った時よりも乗りやすそうだ。が、しかし。
「やばい怖い! 怖いって!」
「ははは」
「ハハハじゃねぇよ! コウも早く乗れよ!」
コウに抱え上げていただき、先に乗せてもらった翼龍の背は、安定感など微塵も無い。つーか俺がまったく安定できてないだけなんだろうが……本気で怖い!生命の危機を感じる!
俺がブルブル震えているのを心底楽しそうに眺めるコウに殺意が芽生え始めた頃、隣から咳払いが聞こえてきた。
「陛下、いい加減になさいませ」
「やれやれ、口うるさい奴だな」
「陛下!」
首を動かすことすら恐ろしくて出来ないが、この声はチュウゴさんだな。なんていい人だ!
コウはわざとらしい溜め息を零して、軽々と俺の後ろに乗り込んだ。後ろに人がいるだけで、物凄い安心感が込み上げる。手綱を握るコウにもたれ掛かると、安心感は一気に増した。
「あーあ……これから一刻も乗らなきゃいけねーのか」
「ずっとそうしていろ。落としはせぬ」
耳元で囁かれた声は、やっぱり楽しそうだ。いじめっ子めと思いつつも、さらなる安心感を求めて俺はコウの袖を掴んだ。