How to go
夜、思い悩む。
 コウが出て行った部屋の中、ユーイは俺の寝支度を始めている。ワンピースみたいな白い寝間着を手際よく俺に着せて、枕元に水差しを置いてくれるのだ。いつものことだが、ユーイの仕事には無駄がない。見ているこっちが気持ち良くなるほどテキパキしている。
 そんなユーイを横目にゴロゴロとベッドでだらけながら、俺はさっきのコウの話を頭の中で一生懸命整理していた。でも一人ではまったく整理できないわけで……。

「ユーイぃ」
「はい、何か」
「コウが凄いのはわかったんだけどさ、ちの声とやらが聞けるのがどう凄いんだよ」
「そうでございますね……例えば水害が起こった場合、陛下の御力を持って被害を最小限に抑えることができます。陽太様もご覧になった通り、水を治めて居られます故」
「なにそれ……すっげーじゃん」
「はい、滅多な事ではお見せいただけませんが、陛下は歴代皇帝の中でも特に素晴らしい力をお持ちです」
「……そっか」

 部屋の明かりを落とし、おやすみの挨拶を交わしてから、ユーイは部屋を出て行った。天蓋の外の小さなランプだけが灯されてた薄暗い部屋、でかすぎるベッドの上で俺は丸まった。肌触りの良いシーツはひんやり冷たくて心地いい。
 いつもならすぐにやってくる眠気は、明日出かけられる事への興奮とさっき見た超能力への興奮でなかなか掴まえられない。

 自然には勝てない、ってのが俺の常識だが、ここではそれすら超越する力が存在するのだ。
 そんな力を持つコウが、愛でられもしない俺を飼う意味は、どこにあるんだろう。もう何度目になるかもわからない疑問が、また浮かぶ。
 こんな世界で、俺は何をしたらいいのか。今みたく、ただ何もせずに過ごして、本当にいいんだろうか。
 こっちの人たちには意味を見出そうとすること自体が無意味だと言われるかも知らないけど、このひと月で何もしない事の辛さを、俺は知ってしまった。何か、意味が欲しい。どうして俺なのか、その理由を見つけたい。

 自分の存在意義に対する悩みはそれからしばらく続いたが、俺の意識はいつのまにか眠りの中に沈んでいった。





 翌朝、いつものように風呂に入ってから美味しく朝飯を食っていたら、コウがやって来た。今日はフカフカの毛皮帽子(ロシアっぽい)をかぶり、橙色の着物の上に、黒いマントらしきものを羽織っている。おお、頭の剃ってる部分が見えないだけで200倍くらい美形度が上がってるぞ!
 どっかと俺のそばに腰掛けたコウは今日も絶好調に偉そうだ。そしていつも通り「今日も小さいな」とニヤニヤ笑い、ユーイに茶を所望した。苛つくぜぇえええ。

「……コウ、もう朝飯食った?」
「ああ」
「ふうん。あ、俺が食い終わったらすぐ出かける?」
「いや、ゆっくり食え。そう急いではおらぬ」
「そう? じゃ、お言葉に甘えて」

 そういえば昼飯や夕飯はよく一緒に食うが、朝飯は最初の食事以来、一緒に食ってないな。まぁ朝は何かと忙しいしね。そうそう俺に構ってられないんだろうな。
 コウはまったり食事を続ける俺を何故かジロジロと観察している……なんですか。非常に視線が気になりまするよ。
 しばらく無言で観察を続けたコウは、茶を飲み干すと立ち上がって、ユーイを連れて衣装部屋に消えた。あー、もしやユーイが選んでくれた服の駄目出しなのか……。

「陽太、着替えろ」

 そして朝飯を食い終わる頃に衣装部屋から出て来たコウの手には、今俺が着てるのと色も形も同じように見える着物だ。ああ、ユーイが項垂れてらっしゃる。
 ここで逆らうのも面倒な事になりそうなので、素直にユーイに着せ替えてもらった。ユーイはずっと伏し目がちだ……可哀想に……。

「うん、それでいい」

 着替え終わった俺を見て、コウは満足気だ。俺の服はなぜか紫色ばかりだから色がダメってこたぁないんだろうが、さっきの着物は気に食わなかったらしい。俺には違いがわからん。


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あきゅろす。
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