How to go
不思議がいっぱい
 コウが水に浸かった人差し指を、ゆっくりと引き上げる。その指先に、どうしたことか、水がビローンとくっついてきた。そしてふるふると震えながら、球状になっていく。ゴルフボールくらいの大きさになったその球を、コウはいとも簡単に空間に弾いた。

「……ありえねぇ」

 水の球は浮いたまま、俺の目の前を漂う。思わずつついてみようと指を触れさせた瞬間、球が弾けて机に落ちた。もうただの水に戻ってる。

「なんだよこれ……超能力?」
「チョウノウリョク? ああ、お前の国ではそう言うのか」
「すげぇ……ってか、コウって何者?」
「皇帝だ」

 自信満々にそう言われ、俺は思わず脱力した。そういうことじゃないんだよ……。
 科学の子である俺に、このファンタジーワールドはどこまで超常現象を見せつけるつもりなんだろうか。いくらこの世界が俺の常識では計り知れないったって、見た目は全然地球と変わらないんだし……もうちょっとなんか……俺に優しくしてくれてもいいんじゃないか。
 でも受け入れるしかないのはわかってる。コウに超能力があろうとなかろうと、俺はコウに庇護してもらわねば明日も知れぬ身だ。

「えと、つまり……コウは不思議パワー……不思議能力があるから皇帝になったのか」
「そうだ。これは皇帝たる一族に時折現れる能力でな」
「へぇえ」
「民には伏せられているが、央ではこの能力――妖術を使える者が現れた一族が帝位を簒奪してきたのだ」
「……さんだつ」
「そうだ。数百年は受け継がれるが、唐突に別の一族の中から妖術を使える者が現れる。一代で失くした例もあるようだがな」
「ふうん……」

 あれかなぁ……例の天主様とやら絡んでるんだろうか。皇帝に相応しい一族を見極めてるとか?
 確かにこんな能力があれば皇帝に相応しいっていうか、何でも出来そうっていうか、何されるか分からないから従わざるを得ないっていうか……結構恐怖政治系なのか、もしかして。

「その妖術ってさぁ、もしかしてすっごく危険なのか?」
「危険? そうではない。妖術を持つ者は地の声を聞くことが出来るのだ」
「……ちの声?」
「例えば翼龍だ。俺はあいつらの声を聞ける」
「ええっ!! あの恐竜と話せるの!?」
「そうだ。それ故、背に乗ることが出来る。他の者は近づくことすら叶わぬ」
「……」

 うーん、本当になんでもありだなーこの世界。正直まだよくわかんねーけど、つまり皇帝は凄いってことだな!これ、結論でいいや。
 コウって凄いんだなぁと言うと、コウはなぜか苦笑して立ち上がり、よく寝ろよ、と俺の頭をわしゃわしゃと撫でて部屋を出て行った。
 ……皇帝陛下の行動はまったく読めんな。


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あきゅろす。
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