結局空飛ぶ恐竜に乗らなければならん恐怖もお出かけの誘惑には勝てず、俺も行く、と返事をする。コウの弟も見てみたいしな。
それにしてもコウの家族か……未だに誰一人会った事ないし、あんまりピンと来ないな。
亡くなった前皇帝のコウのお父さんと、今は太后のお母さんの肖像画は見たけど、コウの口から家族の話を聞くのってもしかして初めてかもしれない。なんせ奥さん方の話もこれっぽっちもしないんだコイツは。
「コウって何人兄弟?」
「さて……十人ほどいたか」
「10!? それは、多いなぁ……コウが長男なんだ?」
「いや。兄が二人いるが、俺が生まれた故、継承権を失った」
「?」
よくわからん。ユーイとの勉強会でも聞いた覚えがない話だ。
あれか、奥さん方にも誰が偉いとかって順番があるのか。コウのお父さんだって何人か奥さんいたんだろうしなぁ。
首を傾げていると、ミカンみたいな果物の皮を剥いていたコウが、俺の口元にその果物を差し出して下さった……大人しく食うしかない……。
うん、よくこれやられるんだけど……餌付けかよ。うまいけど。
「常であれば長子が継承者となる。が、例外もある。俺はその例外だ」
「はぁ」
「俺が皇帝たる所以を、見せてやろう」
「ゆえん?」
コウはとても楽しそうな顔をしながら、果汁まみれになった手を拭った。少し離れたところに控えていたユーイを視線で呼ぶ。
「そうだな……由宇以、水だ」
「承知致しました」
……水?
水で何かするのか?
まったく検討がつかない『ゆえん』とやらだが、俺には大人しく見ておくくらいの選択肢しかないわけで。ユーイが例の石を使って洗面器のような器に水を満たす間、楽しそうにニヤニヤしてるコウをぼけっと眺めておいた。
いやーそれにしてもコウは美形だな。美人は三日で飽きるって、あれ嘘だ。一ヶ月経っても、あまりの整いっぷりに関心しちまうもん。
日本にいたら……日本に居て普通の髪型だったら、モッテモテだろうなぁ。もし、日本にコウが居て「妻は三人、中学生の男を一人飼っている」とか言っても違和感無さそうだよネ……コウって偉そうだし。偉そうな男はモテないんだろうけど、実際偉いから問題ないしな。やだな、身分格差って!
「どうぞ」
「ああ」
くだらない事を考えてるうちに、準備が整ったようだ。机の上に洗面器いっぱいの水。
「で……何すんの?」
「見ておけ」
コウはどうみても『ニタリ』としか見えない笑みを浮かべて、水面に指を浸けた。