さて、俺がこの世界……『央』に来てから早くも一ヶ月が過ぎた。その間俺が何をしていたかと言うと……残念ながら、何もしてないに等しい。
イシュウさんやユーイ……俺に付けられたしもべと、この国の常識や読み書きについてお勉強をし、食って寝て、やたら広いこの城の中を探検したりしていただけだ。快適にも程がある生活を送らせていただいている。
『鳥』は「特にすることは何もない」のだそうだ。ただただ、上に愛でられるための存在、というやつなのだという。まぁ俺はご寵愛を頂戴していないがな。寵愛っていうより、イジられてるってのがピッタリ……いやいや、自分に不利な事には口を噤むぞ。
しかし……やる事があんまりない、というのは実は辛い。コウは皇帝として忙しなく働いてるし、イシュウさんはコウの秘書っぽい仕事をしているから当然忙しい。ユーイは俺のしもべだが、イシュウさんの部下でもあるので、そっちの仕事も少ないながらこなしてるらしい。俺と同じ歳だと言うのに、本当、頭が下がる。
今日もユーイとの勉強会(今日は歴史を教えてもらった)を終え、まったりとした時間がやってきた。もうやることがないのでゴロゴロと寛いで食って寝るだけだ。
「なぁユーイ」
「はい」
「ユーイって、身長どれくらいあるの?」
「はぁ、六尺といったところで」
「6尺って……えーと、60寸で……つーことは、やっぱ180以上はあんのかぁ」
未だにこっちの単位に慣れない俺だが、なんとか変換する事はできるようになってきた。しかし……15才で180センチ以上かぁ。こっちの人間は平均的にでかいんだな。アジアを飛び越して北欧並みだ。
最初にユーイを紹介してもらった時は、絶対に十才以上年上だと思ったんだが……こないだ同じ歳だと聞かされて目ん玉飛び出そうになったもんな。そら、コウが俺を十才児扱いするわけだよ……。
そんなユーイが、俺に茶を淹れてくれながら、至極嬉しそうに話しかけてきた。
「陽太様、今日は陛下がいらっしゃるそうですよ」
「えー……何しに?」
コウが来る、と聞いて、俺は思いっきし眉をしかめてしまったと思う。だってなぁ……。
「……それは、お食事でしょうが」
「コウって絶対あれだ、ドSだよなぁ。あー、サドって日本語で何て言うんだ……あっ、そうそう、いじめっ子気質だ!」
「……」
「俺、Mじゃないから、ムカムカしちまうんだよね」
おお、考えてみたらサドよりマゾの方が説明が難しいな。いじめられたがり……か?