How to go
講義の時間
 イシュウさんの紙に図まで書き付けながらの説明(ちなみに文字はやっぱり見覚えのある『漢字』だった)はわかりやすくて、質問を挟むことも特になかった。というか全体的に、どことなく馴染みのある中国風だし。

「この国の名前は『央』。その名の通り大陸の中央に位置して、周囲を四つの属国に囲まれています。建国は約千三百年前でございますが、何度か王朝が変わっておりまして、現王朝は陛下で六代目となります。陛下はご即位八年、民を大事にされる立派な皇帝でいらっしゃいます。まぁ、時々今日のようにやんちゃもなさいますが。その他の詳しいことは、陛下からお聞きいただくのがよろしいでしょうな。この城……暉黄(キコウ)城は外朝と内朝から成りますが、今おりますのが内朝の朱夏宮でございます。朱夏宮の他に三つの宮がございまして、それぞれ青春、白秋、玄冬。四つの宮は簡単に季節の名前で呼ばれております。この夏の宮の他には、陛下の后妃様方がお住まいです」
「后妃……! お、奥さんが三人もいらっしゃるわけでごじゃりますか!」
「陛下は御歳二十六におなりですからなぁ。まさに男盛りといったところで」
「そ、そうですか……」

 そうか……まぁコウは皇帝だしな。そういや中国王朝の皇帝もやたらたくさんの妃がいたっていうしな。しかし三人って……一夫一妻制の現代日本で生まれ育った俺としては、そんなの想像を絶する。26才で三人の嫁とか、どんだけ甲斐性ありまくるんだ、コウって。あ、話をぶった切ってしまった。続きを聞こう。

「さて、よくおわかりでないようですから、『鳥』について簡単にご説明いたします。『鳥』は上、つまり皇帝に富を齎す存在、と言われております。皇帝は『鳥』をご寵愛になるのがこれまでの常識でございますな。しかし……いえ、まぁ良いでしょう。ヨウタ様は……ああ、ヨウタ様、文字の読み書きはいかがですか」

 くそ、言いよどんだあの間……イシュウさんも俺のことガチョウだと思ってらっしゃるんですね。いいよ、俺はどうせ美しくないガチョウだよ。自分で平凡だと自覚してるけど、こうも他人にあからさまな態度取られると地味に傷つくというか。好きでこの世界に来た訳じゃないのに……なんだこの扱われ方。
 ちょっと落ち込んだ気分を押し殺して、俺は筆ペン(らしきもの)を受け取った。

「……多分少しなら書けるんじゃないかと思います。漢検2級取ったし」
「それは何より。過去の『鳥』は文字や言語を解さない方が殆どだったと聞いておりましたが、ヨウタ様は不自由は無い様子。素晴らしいですね。お名前をお書きいただけますか」

 チッ、今更持ち上げやがった。しかも自分が理解できない(であろう)漢検2級のくだりは無視しやがった。俺は小さな仕返しとして、メモ帳らしきものの丸々1ページを使って『木下陽太』と書きなぐってやった……が……イシュウさんの字と比べるとすごい悪筆だ。さらに落ち込んじまった……。

「なるほど。大樹に抱かれる太陽を意味なさる。いいお名前ですね」
「……どうも」
「さて、陽太様。ここからが大事なところなのですが」
「はい」

 その後の話はこうだった。
 異世界人が渡ってくる時期はランダムで、二代続いたこともあれば十代以上開いたこともあったという。それで、これまでの異世界人たちが何か特別な事をしてきたかというと……「特に何も」というのが正解で、それなのに『鳥』を得た王の時代は栄えたのだと言う。なんじゃそりゃ。



 そして、ただ、一つだけ。
 俺が今までの『鳥』と違う点があったのだ。



「これまでの『鳥』はすべて女性であられたのですが」
「……え?」
「陽太様は、男性でいらっしゃいますね」

 イシュウさんは俺をちらりと見て、ふ、と小さく溜め息を吐いた。

「『鳥』が皆、女だった……?」
「ええ、ですから……陽太様が女性であられたならば、素直にお喜び申し上げたのですが」
「……えーと、それは……俺のせい……じゃ、ないじゃないですか」
「もちろん陽太様のせいではございませんとも。どのようなお計らいかは存じませぬが、随分と天主もお茶目なことをなさいまするな」

 くそッ、溜め息を吐きたいのは俺の方だぞ!!天主って誰だ!!


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!