あまい花

 三人で表面上はいつも通り(まぁ俺の心の中は大時化な感じであるが)昼飯を食う。つーか……よく考えてみたらなぜこんなにも、コースケも小山田もいつも通りなのだろうか……。もうちょっとなんかさぁ……いや、微妙な空気を期待してたわけじゃないが、気が抜けるというか。
 そんなこんなでメシも食い終わり、三人してデザートの牛乳プリンを食していると、コースケが英文のギャル系かわいこちゃんに話しかけられてしまった。彼女は先の飲み会からこっち、コースケにアタックをかけまくっているが、地味目スキーのコースケは今だって適当にあしらってやがる。ああ、ギャルっ子が可哀想だぜぃ……。
 牛乳プリンの最後のひとかけらを口に運びながらコースケのつれない様子を観察していると、ケータイ片手の小山田が俺の腕をちょい、とつついた。マチ、と俺を呼ぶ。

「は、はい? なんだ?」
「うん。次、講義一緒だっけね」
「えーと、英語か」
「うん。休講だって」
「なんと……!」

 ほら、と小山田はケータイで配信される休講情報を俺に見せてくださった。おおお……!
 大学生にとって休講の二文字ほど神々しいものはない。たかだか九十分の講義がひとつ消えたくらいではあるが、なんたる幸運!神様、休んでくれた先生ありがとう!と投げキッスを送りたいほどの気持ちになる。

「ラッキーだ。俺、今日の星座占いで1位だったんだよ」
「へぇ。俺、最下位だった」
「そ、そうか……まぁたかが占い、気を落とすな」

 俺の言葉に小山田は微笑んで「そうだね」と言った。あ。しまった。小山田のかーちゃんの職業のことすっかり忘れてたよ俺ってば。

「……おやま」
「マチ」
「おう!?」

 俺が挟もうとしたフォローをぶった切って、小山田が微笑んだまま、言葉を紡ぐ。

「本当は、最下位だったから、やめといた方がいい気がしてたんだけどねぇ」
「……ん? なに?」
「マチ、キョドっててかわいそうになっちゃうから。休講も何か、天の采配って気がするって言うか」

 ちょっと憂いの混ざるその笑顔に、うっかり「これは男でもときめく」とかアホなことを考えてしまった俺の食器トレーを持って、小山田が立ち上がった。

「コースケくん。俺たち、先に行ってるね」
「え」
「おー。後でな」
「ええ」

 どうなってんのかなんて、考えるまでもない。きっと、これは、あれだ……お返事の時間をわざわざ小山田が捻出したんだ……。
 結構固い決意で小山田と顔を合わせた、はずだった。なんていうの、こう、俺も好きだ……とか、言う予定だった。

(タ、タイミング……が!)

 そう。なんとなく、タイミングがズレちゃったような気がしないでもない。俺はこの後いったいどうすればいいのか……と思いつつ、食器を下げに行ってしまった小山田の後を追うべく立ち上がる。

「真知」

 コースケがギャルっ子との会話を休止して、俺にガッツポーズとウィンクを寄越した。すっごくいらないんですけど、その励まし……。


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