あまい花

「はッ、はぁ……ああ、クソッ!」

 俺はあの場所から、走って逃げた。そうすることしか、できなかった。
 昼飯も食ってないし、三限目も授業があったのに、裏門から校外に出てしまった。もう、戻る気も起こらない。

「ちくしょ……もう、なんで……」

 初夏の日差しは肌を刺す程に熱く、痛いってのに、俺の身体は真冬みたく震えていた。
 聞かなきゃ、よかった。聞かなきゃよかった。聞かなきゃ、俺は、こんなに震えるような気持ちを知らずに済んだ。
 目頭が熱くなってくる。涙が零れそうになって、慌てて目元を拭った。



 男だからとか、女だったら良かったとか、あんなにぐだぐだと悩んだ自分が酷く滑稽だった。
 身体中から、心の奥底から、湧き上がってくるこの気持ちの名前を、俺は知っている。
7:運命の人

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