あまい花

「で?」
「ん?」
「ん、じゃないデショー。何のためにこんなとこまで連れてきたと思ってんだよ。マサとエイジくんの話だよ」
「あー……聞いたんだ?」
「うん、聞いた」
「……自分の気持ちに気付いて速攻告るとかさ……焦り過ぎだよな、俺。ちょーかっこ悪いったら」
「ま、いいんじゃない? マサは多分、言わなきゃ一生気付きゃしねぇから」
「ハハ……うん、でも、やっぱ、困らせちゃったから」
「困らせた、ねぇ」

 コースケは、俺の味方をしてくれると言った。最終的にどういう結論を出しても、そうしてくれるんだと俺も信じている。
 でもコースケはいい奴だから、俺が結論を出すまでは小山田も励ましてやるに違いない。自分が恋してなくて暇だからって……いや、まぁなんであれ、本当にいい奴だ。そんなコースケだからマブダチでいられるのだとも思う。

「あのさァ……お母さんの予言のせい?」
「え?」
「エイジくんが真知を好きだって言う気持ちに気付いたのは、運命の恋っていう、予言があったから?」
「……うーん……どうだろうなぁ」

 ふっと小山田が溜め息を吐いたのが聞こえた。それきり、向こう側からは何も聞こえてこない。
 つーか。
 俺、今すぐここから立ち去るべきじゃ、ないか?
 何か、どうも、こう……とてつもなくあれで、俺の本能的な部分が、警報音を鳴らしている気がするぞ。

 この先を聞いたら、もう、戻れないような。
 そんな予感がする。それなのに。

(あ、足、動かない……)

 足どころか、手も、指も、動かない。何故だ。
 背中に、汗が流れるのがわかる。どくどくと鳴る心臓の音が、耳の奥で響いた。

「俺はさ……あの飲み会の時、本気であの女の子を憎らしく思った。女ってだけで、あんな風にマチに抱きついて、キスできるのかよふざけんなよって、本気で思ったんだ。そんで、そう思った自分に結構ビックリしたりしてさ」
「……ふうん?」
「だから、運命とかそういうのは後付けかな。俺は……ただ、単純に……マチが欲しい、と思っただけで……マチが運命の相手ならいいなって、思っただけで」

 いったい、小山田は今、どんな顔をしているんだろう。俺は、今、いったい……。

「マチが、俺のそばにいてくれたらいい……願わくば、俺の願う形で」


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あきゅろす。
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