あまい花

 一限目、二限目と大教室での文学部の全体講義が続き、ダメな大学生である俺はその両方を睡眠にあてた。出席点のみで評価をくれる授業ではあるが、いつもなら真面目に話を聞く。しかし完徹した今日は無理だった。人に囲まれている分、一人でいる時よりも悩まずに済んだしな。人の動く音で目を覚ませば、もう授業は終わっていた。

(ああ、昼休み……か)

 さすがに今日は小山田と一緒にご飯ってことにはならないだろう。コースケ……と一緒に食うのも何となくあれだな。哲学科のダチ連中は……と教室内を見回したものの、いつもコースケと一緒にメシを食う俺をおいてさっさと教室を出て行ってしまったらしい。くそっ、友達甲斐のない奴らだな!

(学食だと……小山田と鉢合わせる可能性もあるな。今日は購買で何か買って食うか)

 俺は立ち上がって、凝り固まった背筋を伸ばした。少し寝たら、ちょっとだけ気分も上向いた気がする。
 よし、と小声で自分に気合いを入れて、購買へ向かった。



 サンドイッチと紙パックのコーヒーを買い込んで、俺お気に入りのベンチを目指す。東キャンパスの端にある図書館の裏手にあるそのベンチは、昼でも人が殆どこない穴場だ。たまにカップルがいちゃついてやがるが、その時はその時……。

「ここ、人殆ど来ないからさ」

 ……角を曲がればもう着くっていうタイミングで聞こえてきたのはそんな声だった。同じ考えをしてる人間……というか……この声は間違いなくコースケで……。
 ああ、なんかもう、嫌な予感しかしないぞ。

「こんなとこあるって、知らなかった。なんか、いい感じじゃん」

 やっぱりね!そうじゃないかと思ったよ!
 その声が聞こえてきた瞬間、俺は建物の壁にビタッと背中を張り付けてしまった。
 案の定というか、予感通りというか、コースケと一緒にいるらしいのは小山田であった……。二人で何してやがるんだ!
 つーか思い当たる節は一つしかなく、それは勿論俺絡みに違いないわけではあるが。それにしたってだ!
 ああ、心臓が凍り付きそうだ。
 ここに居て、話を聞くことは……なんとなく、俺にとって非常に良くないことのような気がする。余計に悩む羽目になりそうだし、どう考えたって卑怯で……フェアじゃ、ない。
 そう思いはしたが、ここで立ち去れる程俺は出来た人間じゃない。だってほら、気になってしょうがないじゃない……!


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あきゅろす。
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