あまい花

 ね、眠れなかった……今日は一限から授業なのに……。
 鳥のさえずりと新聞屋の音が聞こえてきた午前五時、俺はまだまだ布団の中でグルグルと思い悩んでいた。こんなに悩むのは高校二年の大恋愛以来じゃないだろうか。しかしなんだ、なぜ告られた俺がこんなに悩まねばならんのだ。
 考え過ぎで頭が重い。まだ薄暗い部屋の天井をぼんやり見つめながら、ここ数日の悩みやら小山田の態度やら、コースケの言ったことやらが浮かんでは消える。
 自分がどうするべきか、わからない。
 あっさり振ってしまえばいいのか。でもそしたら、その後、俺と小山田の関係性はどうなるんだ?
 友人として、これまでと同じに付き合っていけるのかな。そんなムシのいい話、あるのかな。
 少なくとも、俺は元通りにできないかもしれない。小山田に引け目っていうか、罪悪感っていうか、そういうものを感じてしまう気がする。
 あっさり振る以外に、もう一つ、道があることもわかってはいる。俺が小山田の思いを、受け入れるという道だ。こっちを選ぶなら話は簡単だろう。だが……だが、しかし。

(付き合うったって……なぁ)

 俺は、小山田を好きにはなれるかもしれない。小山田の魅力は、誰に言われなくたって一日でもそばにいればわかってしまうものだ。
 付き合うとなれば、俺は小山田と恋愛をすることになる。小学生のままごとみたいな恋愛じゃあるまいし、一緒にいるだけ、手を繋いでるだけでハッピーなんてこたぁないだろう。そこには絶対に肉欲も絡むはずで、キスだってセックスだって存在していくはずだ。そんなことが、可能だろうか。

「……不可!」

 百歩譲ってキスまではなんとかできたって……セ……ックスは……無理だ!無理だ無理だ!文字面だけで生々しすぎて想像もしたくないぞ!

「なんで……小山田くんは男なんだ……」

 結局のところそれに尽きる、と思う。
 俺は小山田をあっさり切り捨てることもできない。かと言って思いをあっさり受け入れることもできない。あいまいにはぐらかすことだって、もちろんできない。

 小山田が女なら良かった。それなら、こんなに悩む必要は、一切なかったのに。


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あきゅろす。
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