瞬く間に微妙な空気が流れ、お互いに見つめ合ってしまう。小山田は呆然と、俺ははてなマークを頭上に浮かべて。
えーと待て待て、船曳さんじゃなかったら誰だ。うーむ……うーむ……いや、俺はあの時、他の女子と絡んだ覚えがないぞ。考えても無駄だな、さっさと白旗をあげちまおう!
「船曳さんは違うのか。じゃあ小山田の好きな人って、誰だよ?」
「…………うわーん、助けて大久保くん」
小山田はまたしても顔を両手で覆い、俯いてしまった。しかしなぜそこでコースケが出てくるんだ。チキショ、やっぱりアイツは分かってんのかよ。
「なぁなぁ教えろよぉ! 俺だけ分かってないなんて! 淋しいだろぉ!」
「うう、俺は、今、非常に……何て言うか、やりきれない」
「なんで?」
「なんで、って……」
そろそろと顔を上げた小山田が、一度俺を見て、あからさまに失望に近い溜め息を吐いた。そして遠くを見つめて黙り込んでしまう。な、なんだよ失敬な奴だな!
まったく分からない。船曳さんじゃないのなら、俺に八つ当たりのごとく怒りを覚える理由なんかどこにもないじゃないか、と思う。
黙りこくる小山田にイライラとし始めた頃、また溜め息が聞こえた。分からなくて当然か、と呟く声も。
「俺はねぇ、マチ。運命の恋に落ちる……って言われてたから。もっと、劇的なもんだとばっかり思ってたんだけど。そうじゃなかったんだ」
「ふうん?」
「穏やかで、一緒にいるだけで楽しくて、気持ちがふわふわしちゃって」
「……ふう、ん?」
一緒にいる?
ってことは、もっと身近な人間なのか。いやでも金曜日に俺、つまりいわゆる……嫉妬されたんだよな?
なんだ、小山田と仲良い文学部女子の話なんか聞いてねーぞ。誰だ誰だ。
「大久保くんにも言われたんだけど、やっぱ……ちゃんと言葉にしないと伝わらないか」
小山田が苦笑して、はてなマークを浮かべ続けている俺の頭をぐりぐりと撫でくり回した。
その手が、するりと頬に滑る。そりゃもう、なんの不自然さもなく。
あれ。
なんだ、これ。
なんか、なんだか、おかしくないか。
俺を見る小山田の目は、柔らかい。いや、柔らかいっていうか……むしろ……これは……。
「俺が好きなのは、大井真知くんだよ」
な、なんてこった。
思いも寄らぬ超ド級の爆弾を投げつけられた俺は、アホみたいに口を半開きにしたまま固まってしまった。なんてこった。