あまい花

 ほぼ都会の喫煙所と化している小さな公園には、夜だと言う事もあってか、小山田しかいなかった。こっちに気付いた小山田に恐る恐る、ようと手をあげる。
 ベンチに腰掛けた小山田は一瞬目を細めて、それからさっきまでの固い態度もどこへやらという感じで、突然口元を押さえてくつくつと笑い出した。

「えっ、なに!」
「や、だって、マチ、ちょー怯えてんだもん! 小犬みてぇ!」
「なっ……んなの、お前のせーだろぉ!」
「ははっ、あー、ねぇ。俺のせいかぁ」

 気が抜けたというか、緊張の糸が切れたと言うか。俺はズルズルと小山田のそばに座り込んで涙を拭ってる小山田を睨みつけてやった。小山田が俺の視線を捕らえて、またにこりと微笑む。
 その笑顔を見て、安堵の溜め息が漏れた。もう、大丈夫だ。そう思った。

「んだよ、人がすっげぇ悩んだってのに」
「ごめんね」
「お前、メールも返さねーし」
「うん、ごめん」
「で……小山田は、何で怒ってたの」

 俺がそう聞くと、小山田は怒ってたっていうか、と苦笑しながら視線を外した。

「うーん、何て言ったら良いんだろうなぁ。右往左往してたっていうか。衝撃を受けてたっていうか」
「は? 衝撃?」
「金曜日はねぇ、確かに怒ってたんだけど。自分でも、なんでこんなに怒りが湧いてくるのか理解できなくてさ。マチは悪くないってわかってて、八つ当たりした。ごめんね」
「……よくわかんねぇよ」
「だよねぇ」

 それきり小山田は黙り込んで、地面に視線を彷徨わせた。俺がどんだけ横目で見つめたって、こっちを見ようともしない。
 右往左往で衝撃で、やっぱり怒りなのに八つ当たり。そんなこんがらがった感情の正体が、俺にわかるわけがない。でも、そのすべてが俺に向けられてたということだけは、はっきりわかっている。
 沈黙が続く中、俺は考え続けた。そういえばコースケは、あの小山田の態度を理解した風なことを言っていた。コースケが気付いたのは、どの会話の流れだったっけ。確かあれは……。

「あ」

 思い出して、そして俺は唐突に一つの可能性に思い至った。もしかしてもしかして。
 沸き立つ興奮のあまり、思わず裏返りそうになる声を必死で押さえながら、俺は小山田を窺った。

「小山田、さぁ……」
「うん?」
「いや、あの、違うかったらごめんなんだけど。もしかして、好きな人ができたの……かな?」

 予想は的中だったらしい。
 俺の言葉に一瞬硬直した小山田は「うわぁ」と小さくうめいてから両手で顔を覆って、自分の膝に突っ伏してしまった。


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