目の合った小山田は、スイと劇場の中に入って来た。どうも映画を見に来たわけではないらしく、チケットを持っている気配もない。
「ど、どした」
ああ、みっともないくらい吃っちまった。でもそれもしょうがない気がする。小山田の雰囲気が、金曜の夜のように固いものだったからだ。
小山田はいったん、売店のレジに居る田崎さんに目をやってから、俺の目の前に立った。
「マチ、今日は何時まで?」
「えっと……あと三十分くらい。二十時上がりだけど」
「じゃ、隣の公園で待ってるから、終わったら来て。ごはん食べようよ」
「お、おう」
そしてあっという間に小山田は踵を返して劇場から出て行ってしまった。小山田の背中を見送りながら、田崎さんがうわうわ言っている。
……なんだったんだ。つか、どうして俺がバイトだって知ってんだアイツ……あ、コースケに聞いたのか。いやいやそれにしても、昼飯の時はメールも返してきやがらなかったくせに、バイト先に夕飯に誘いに来るって。
「ほんとに友達だったんだねー……」
「疑ってたんすか」
「唐突すぎてビックリしたのよ」
「あー、俺もビックリしました」
やーんそれにしてもいいもの見たわ、とハイテンションな田崎さんの声で何とか混乱する思考が現実に引き戻され、俺は事務所に戻った。それから三十分、まったく身の入らないまま電話応対業務をこなしてバイトを上がる。
(……ユウウツだ)
更衣室で着替えながら、俺の気分はどんどん下降していった。自然、着替える手も遅くなってくる。
小山田の固い雰囲気の原因も分からないまま、これから食事をご一緒せねばならんのだ。そりゃ憂鬱にもなるってもんだ。
喧嘩したわけでもない、一方的に身に覚えのない事で怒りをぶつけられたに近い。その理由を、きっとこれから聞かされるのだろう。
(一体なんなんだろ……)
ダラダラと着替えていても五分とかからず帰り支度は整ってしまう。そしてどれだけ憂鬱でも、逃げるわけにはいかない。
重い気分を引きずりながら、俺は隣の公園へと足を向けた。