あまい花

 とにかく冷麺を腹に収めることを優先した俺は「ねーねー何怒ってんの」と煩いコースケを無視して黙々と麺を啜り続けた。ちなみに今日はコースケも同じメニューだった。つまみ食いもできやしねぇ。
 まぁしかし、全部食い終わると人心地が付いた。食い物は偉大だ……大抵のイライラは解消してくれるからな。

「お、ようやく言う気になった?」
「おう。聞いてくれるか」
「聞きましょう」

 寛大な態度を見せるコースケに心の中で感謝しながら、俺は金曜日の小山田とのアレコレをぶちまけた。

「……と、いうわけなんだけど」
「はあ。それってマサの思い違いってことはないの」
「ねーよ。すっげぇ目で睨まれたんだぞ」
「ふうん……」

 コースケもよく分からないと言うように首を傾げた。何かしたんじゃないの、直前の行動を思い返してみろよ、と至極真っ当な意見を述べ、茶を啜る。
 そんなの、何度も思い返した。もう嫌になるくらい、考えた。
 俺は船曳さんに絡まれていただけだ。隣の島で文学部女子に囲まれていた小山田には何もしてない。つーかできやしないじゃないの。
 その旨をコースケに伝えると、コースケは何故か神妙な面持ちになった。

「船曳さんって、あの女王様か」
「そう。あの女王様だよ」
「ふうん……ああ、うーん……いやでも」
「んだよ、何か分かったのか」
「いやぁ、どうかなぁ」
「んだよ!」

 コースケが分かって、俺が分からない。こんな悔しいことがあるだろうか。しかもコースケはどれだけ聞いても煮え切らない曖昧な言葉でお茶を濁し続けた。俺の唯一の切り札だった楽勝裁判は金曜日に手渡してしまったしな……くそっ、さっさと貸しちまうんじゃなかったぜ!

「もういーよ! コースケなんか絶交だ!」
「おいおいマサくん。そりゃねーよ。仲良くしようよ」
「じゃあ言えよ」
「まぁまぁ、それは本人に聞いた方がいいかと思うから。俺は言わないけどさ」
「なんだよもー。お前も小山田も、わっけわかんねぇなぁ」

 俺がまたご機嫌を斜めにしたところで、コースケがちらりと腕時計に目をやった。どうもタイムアップらしい。俺も授業があるし、これ以上食い下がることはできない。
 しょうがないので、トレーを持って立ち上がる。食器返却口は食い終わった学生でごった返していて、少し並ばなきゃいけなかった。そこでも俺がまだぶつくさ文句を垂れてたら、隣に並んだコースケが「まぁ気になるだろうけどさ」と苦笑した。

「見誤るんじゃねぇぞ、マサ」
「へ」
「たぶん、小山田はお前が思うよりずっと、単純な男だよ」


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あきゅろす。
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