あまい花

 あーもう、最近イケメン絡みの苦労ばっかりだ。もう知らん。どうなろうと俺の知ったこっちゃない。小山田もコースケも、せいぜい女子にチヤホヤされてりゃいいんだ。
 華のない哲学科男子はこういう場でも地味で目立たない。どれくらい地味かと言うと……会場の端の方で「最近お気に入りの哲学者は誰か」とか「俺とお前の『萌え』の定義の違いか……脳の条件付けの違いだろ。俺は二次元だと姉属性萌えだ」とか……そういう話題をしちゃうくらいと言えばわかっていただけるだろう。つーか、大学生の飲み会で萌え属性の話題が出るのは一般的なんだろうか。英文や日文が寄ってこない理由も推して知るべしってもんだな。
 それでも同じ志しを持った俺たちのコミュニティでは、結構楽しい会話だったりするので、これまた地味に盛り上がる。

「大井は? 何属性なの」
「属性かぁ。俺は……んー、キラキラしてる人が好きだなぁ」
「キラキラ属性?」
「なんていうか、そこだけスポットライトが当たってるような人に、心惹かれちゃうんだよねぇ」

 そう。キラキラで、華やかで、俺とは違う世界にいる感じのする人に憧れる。実際、高校時代の彼女もそうだった。俺には不釣り合いだと皆が言った。大きなお世話だが事実であることも確かだった。

「はぁん、高嶺の花が好きなのか。自分を見つめ直すことから始めた方がいいな、大井は」
「君たちの幼女とか魔女っ子よりマシだと思うんだけど」
「それは二次元の話だろ。三次元だったら俺らだって、身の程を知ってるよ」
「身の程ってなぁ。俺は好きになったら、その子ともっと仲良くなれるように必死で努力するんだぞ」
「へぇ、凄いな」

 凄くなんてない。恋愛は努力で成り立つのだ。そのまんまの俺を好きになってもらえるなんて奇跡は滅多に起こらないじゃないか。それこそ身を持って知ってる。
 その上、いくら一生懸命努力してたって、振られる時はくだらねぇ理由で振られるし。ままならんのが、恋愛なんだよね。わかってるよ。

「コースケとか小山田とか。ああいうのは、特例だろ。普通は努力なしで好かれるなんて有り得ねぇよ」
「ああ、ねぇ」

 俺は会場を見渡した。小山田とコースケはこんなに人が居ても、簡単に見つかる。やっぱり特例ともなると、普通とは違う輝きってのがあるのかな、と思う。それとも俺の目につくだけだろうか。
 コースケはちょっと遠くの席にいるが、小山田は案外近く、隣の島でこっち向きに座っていた。英文女子に取り囲まれ、アプローチをかけられまくっている。小山田も笑ってるし、一応楽しんでくれているようだ。あー良かった。コースケはどうでもいいが、小山田には楽しんで行ってもらわねばな!
 そういやあいつ、運命の恋を待ってるわりには……あっさりコンパに来てくれたな。やっぱ出会いの場を大事にしてるんだろうか。
 出会いってどこに落ちているかわからないもんなぁ。


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