あまい花

 午後の講義の直前、「小山田とコースケからオッケーいただきましたので」と英文女子&日文女子に報告したら「よくやった!」と褒め倒された。俺の事は今後『オーイ様』と呼ぶと全員が歓喜していたが、なんかジブリ映画に出てきそうだからやめてくれと言っておいた。
 文学部コンパは今週の金曜日にさっそく開催される事になったらしい。狙った男子を獲得せんと試みる女子の行動力は異常だ……。

「大井くん」
「ん?」

 一仕事終えて、ぼけっと授業を受けていた俺に小声で話しかけてきたのは、いっこ空けて隣に座ってた哲学科女子の船曳(ふなびき)さんだった。
 船曳さんは地味な哲学科の中で異色の存在だ。なんせとてもきらびやかなのだ。ちょうCanCamとか読んでそう。髪も毎日巻いてくるし、目ヂカラもすごい。見た目のわりに人懐っこく姉御肌で、哲学科女子には慕われ、哲学科男子には全力でチヤホヤされている女の子なのだ。

「うちの女子も楽しみにしてるみたい。ありがとうね」
「ああ、ね。船曳さんも楽しみっしょ」
「んー、そうでもないかな。ほら、こないだの哲学コンでさぁ、大久保くんに冷たくされたから。あれ、結構イラッとしたもん」

 あらら……いや、女の子って敏感だよな。
 船曳さんはコースケの最も苦手とするタイプの女の子だ。コースケは船曳さんにも一見ちゃんと接してたけど、やっぱり苦手オーラ出てたのが本人にバレてたらしい。

「ごめんなー、あいつ、ダメな子だから。今度叱っとくわ」
「ふふ、ありがと」

 うん、微笑む船曳さんはとても可愛い。俺はコースケと違ってこういう女子力全開な子も好きなのだ。何も言ってくれるな……高嶺の花こそ愛でるべし、だ!

「……まぁでも、今度はコースケだけじゃなくて小山田も来るし、女子は大変だろうなぁ」
「そう? 私、小山田くんは完璧すぎるからあんまり興味ないんだよね」
「ええ、そうなの!?」
「そうなの」

 へぇ、そんなもんか。小山田の隣に立ちたいって子なんか、それこそ掃いて捨てるほどいると思うけど……好みは人それぞれってか。
 ごほん、と教授の咳払いが聞こえてきて、俺と船曳さんの会話はごく自然に終了となった。

 ああしかし、今度のコンパは……荒れるんだろうな。男子は面白くないだろうし、女子はバトルに忙しいだろう。考えただけで気が重い。
 そんな重い気分のまま、俺は……今更だが勉学に勤しむべく、シャーペンを握った。


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あきゅろす。
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