あまい花

 無事に二人を誘い終えた俺は、充実感たっぷりで運ばれてきたランチに手を伸ばす。つぐみはコーヒーだけじゃなく、食べ物だって美味しい。先週小山田と知り合ってからというもの、なんだかんだで昼食はこの三人で一緒に取っていた。学食で周囲の視線を集めまくっていたし、こんな落ち着いた気分で昼食を食うのは久しぶりだ。

「ちくしょう足元見やがってよ……はーホント、マサは酷いヤツだよ。ねぇ小山田くん」
「そう?」
「そーだよ。可愛がってやってんのにツンツンする猫みたいだよ」
「あー、ツンデレ? 俺結構好きよ」
「真知にはデレがねぇよデレが。むしろ小悪魔だよ」
「小悪魔かぁ。じゃあ大久保くんは手のひらで踊らされてる系なわけだね」
「そうそう、俺ちょう可哀想じゃね?」
「愛があれば問題ないよ」
「あーそうね。マサ、俺のこと好き?」
「馬鹿?」
「ほらァやっぱ小悪魔だよ!! ツンデレだよ!!」

 こいつら本当に賢い法学部の子なんだろうか、と俺はちょっとだけ日本の明日を心配したが、サラダのミニトマトを咀嚼することに全力で集中した。誰が小悪魔なツンデレだ。まったく付き合いきれんよ。
 もぐもぐと口を動かしてたら、向かいのコースケが俺のパスタにフォークをブッ刺してくるくると巻き取っていった。ちなみにコースケはサンドウィッチセット、小山田は俺と同じパスタセットだ。

「あ、美味いね」
「ああ、すごくボンゴレだよな」
「こっち食うか」
「食う」

 はい、と差し出されたサンドウィッチに齧りついた……ところで、はっと我に返った。なぜなら視線を……ものっすごい視線を感じたからだ。ぐぎぎと首を動かして視線を辿るとそこには半笑いの小山田が……!

「いやぁ……すっごい仲良し、だね」

 十八歳男子が十八歳男子に手ずからサンドウィッチを食べさせてもらっているの図……想像しなくても寒い。
 しかし待ってくれ、これは「ほらマーくん食・べ・て☆」な桃色ラブラブカッポーではなく、ムツゴローさんが「よーしよし」と餌付けしてる方のアレだ!コースケの悪習だ!食いつく俺も俺だが!

「なんだよ妬いてんのか小山田くん」
「何言ってんだよ、俺もやってみたいなんて思ってないよ」
「そーかそーか」
「マチ、たらこパスタ食べる?」
「……え、あー、うん」

 俺の返事を聞いて、いそいそとたらこパスタをフォークに巻き付ける小山田。一体何に張り合おうとしているんだお前は……。やっぱり日本の明日が心配になっちゃうなぁ俺は。


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あきゅろす。
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