あまい花

 さて、土曜日の話。日曜日もバイトを入れていた俺は、泊まってけというしつこい誘惑にも負けず、終電ちょっと前に小山田邸を辞した。ちなみに小山田は駅まで送ってくれ、またおいでよ、と素敵に微笑んで下さった。わ〜ジェントルマン!
 そして今日は火曜日。文学部全体が対象の講義が四つある、通称・文学部Dayだ。俺の好きな講義が目白押しなんだが……だからすごく楽しみな日ではあるんだが……。
 今現在、俺は後ろに座る英文学科女子に、しつこく背中をつつかれている。

「大井くん大井くん」
「ねー、大井くんってば」
「小山田くんと大久保くんに言ってくれた?」
「あー……」

 やだ、すっかり忘れてた……なんて言い訳したらいいのかしら。あれだ、小山田とコースケをコンパに呼べと言う例の恐喝まがいのお願いごとだ。
 俺はそっと振り返り「今日の昼に返事をもらうことになってるから」と冷や汗をかきながら大ボラを吹いておいた。嘘も方便、文学部最大派閥の英文女子を敵に回すくらいなら、俺はいくらだって嘘をつくぞ!
 これは今日絶対に小山田およびコースケをランチに誘わねばなるまい、と腹を括り、俺は携帯をそっと取り出して、絵文字たっぷりへりくだり表現で二人にメールを送った。件名は「お願いがあるニャン(猫絵文字)」だ。ぜひ釣られてほしいにゃん!



 昼休み。法学部の派閥の領袖2名をつぐみに呼び出し、俺は平身低頭でゴマをすりまくった。頼まねば俺が死ぬ。精神世界的な意味で。

「えー、文学部コンパぁ?」
「コースケくん、頼みますよ。俺を助けると思ってさ!」
「俺、哲学科の女子以外苦手かも〜。キャピってるじゃんあの子ら」
「そう言わずに! なァ、おや……えー……エイジくんは来てくれるよね!」
「マチも居るなら行ってもいいけど」
「あ、俺はもちろん参加ですよ! よしゃ、じゃ、エイジくんは参加ね!」

 いやそれにしても小山田……そんなに寂しがりやなのかお前は……。どうせ小山田が参加したら、女子も男子も食いつきまくって寂しさなんか感じないと思うんだけどな。まぁ、友達がいない酒の場には行きたくないってのは俺も同感だから、何も言えないけど。
 もう一方のコースケはあまり乗り気じゃないみたいだが、そんなことは想定済みだ。なんせ12年来のお付き合いであるので。
 俺にはとっておきの秘策がある!

「コースケ、来てくれたら楽勝裁判プレミアムエディションを貸してやるよ……」
「なっ!!」
「コースケのヤツ、通常版だろ……? ん?」
「クッ……真知、お前って奴ァ……」
「プレミアムエディションは、シークレットキャラで鬼山検事が出てくるんだけどなぁ」
「まさともくん……!!」
「ん?」

 楽勝裁判は某ゲーム会社が生み出した傑作だ。コースケと俺がこの三月からハマりにハマっている神ゲーなのだ。俺は先日、コースケに内緒で(いつか切り札に使おうと思って)プレミアムエディションをゲットしていたわけだ。
 コースケは面白いくらいワナワナと震え、そしてぐっと息を飲んでから。

「僕も是非、参加させていただきたいと思うわけで……」

 はい、コースケゲット。楽勝だァな。


[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!