あまい花

「俺さぁ、大学生になったら皆一人暮らしするもんだと思ってたけど、そうでもないじゃん?」
「ああ、うちの学校、実家から通う奴の方が多いもんね」
「そうそう、俺も実家だし。だから、一人暮らしのダチの家に遊びに行くのって、結構憧れだったんだ!」
「ふうん、そんなもん? 実現して良かったね」
「お〜」

 まぁそんなわけで、俺は喜々として「行く行く!」と返事をし、ホイホイと小山田邸にお邪魔することになった。
 小山田が、俺のバイト先がある駅の南口側に住んでるのは聞いてた。俺はバイト先がある北口方面しか知らなかったのだが、南口方面はすごく閑静な住宅地って言葉が似合う雰囲気だった。昼に見たらきっと、もっとそう思うんだろうなぁ。
 小山田邸は駅から十分ほど歩いたとこにある、小綺麗な1Kのマンションだった。金持ちだと聞いてし、こんな周辺の雰囲気だから、もっとゴージャスなとこに住んでるのかと思いきや、そうでもなかったのでちょっとだけホッとした。ほら、俺んち中流家庭だからね。ゴージャスには慣れてないのよ。

「まぁ座ってよ」
「お〜」

 とは言っても俺の心ここにあらず。きょろきょろとイケメンの部屋を観察するのに大忙しだ。あ、東京タワーのフィギュアがある。机の上には六法全書だ。さすが法学部だな。本棚は小説と雑誌とマンガが入り乱れた感じだ。おお、なんかアクセサリーとかいっぱいあるんだな。ほー、ワックスはこれ使ってんか。あ、眼鏡おいてある。

「そろそろガン見するのやめてくださいよ。恥ずかしいから」
「あー悪い悪い。人の部屋って楽しいな!」
「そう?」
「タワーのフィギュア、どこで買ったのこれ。結構いいじゃん」
「ああそれ、こないだ初めてタワー行った時にねぇ、感動しちゃって。感動記念にお土産屋さんで購入しちゃいましたよ」
「ふうん。俺、実はタワーに行ったこと無いんだぜ」
「ええっ! 東京人のくせに!」
「地元ってそんなもんっしょ。コースケも無いぞ多分」
「え〜大久保くんもかぁ。もったいない、あんなに感動するのに」

 小山田は、大きいものってなんであんな無条件に感動するんだろうね、と笑ってもう一度俺に座るように促してきた。今度こそ素直に従ってラグの上に腰を下ろす。おお……このラグ触り心地がいいぞ。
 しばらく無心でサワサワとラグを撫でまくって、ようやく満足を得た俺が顔を上げると、小山田は俺を見ながらニコニコと笑っていた。しまった、観察されていた……コースケがペット扱いするときと同じ顔してる……。
 気恥ずかしい気持ちをごまかすために、そばにあった本棚に目を移す。おっ、俺が持ってるマンガもいくつかあるじゃないか……あ、いいもの見つけた!

「アルバム発見! 見ていい?」
「どうぞ」

 それは小山田の高校アルバムだった。表紙にはお約束の「飛翔」と、聞いたことのない高校名。

「うっわ〜…1クラスしかないんだ、マジで」
「そっちの全体写真、全校生徒だからね」
「ウッソ! あ、小山田エイジくん発見。短髪じゃん」
「サッカー部だったのよ」
「へぇ……あー、やっぱ、こう、ずば抜けてんね」
「ん?」

 いや、正直な感想を言えば、小山田は場違いなまでに浮いてる。見た感じ、女の子もきっとイケメンに触発されて頑張っているのはわかるんだが、小山田のレベルが格段に……アレだ。

「なんつーか、小山田ってやっぱカッコいいんだなぁって」


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あきゅろす。
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