あまい花

「よし、どこ行こー」
「結局スルーかよ」

 小山田の魔の手が離れた瞬間、俺は何もなかったかのように切り出した。コイツの思い通りにしてたまるものか!という対抗心がムクムクと湧いてきたしな。それになんか、ちょっと恥ずかしいし。いずれ訪れるであろう自然なタイミングにまかせることにするぞ。
 小山田はちょっと面白くなさそうな顔をしつつ、ん〜、なんて思案し出した。よし、メシはどこか頼んだイケメン。

「マチ、何か食べたいのある?」
「俺? そーだなー、お米系かな」
「だよね。米ね。つーかタイカレー食べたいよね」
「……そうでもなくない?」
「俺ねぇ、世にも美味しいタイカレーの店、知ってんだ。うしゃ、行くぞ!」

 がっつり肩を組まれ(身長差的には抱かれてと表現すべきかもしれんが、断固拒否だ!)、俺はつられて歩き出してしまった。「お前、結構強引な奴だな」と文句をつけると、「へへ、俺ってば肉食系?」と素敵にはにかまれた。違うと思う。



 連行された先、小山田おすすめのタイカレーの店は意外にも、何というか、雑多な雰囲気の……こういっちゃなんだが、店主が一人で切り盛りしてるような小汚いとこだった。俺の勝手なイメージだが、小山田はおしゃれ居酒屋とかおしゃれカフェとかにしか行かなさそうだと思ってたのにな。またしても意外性だ。店のメニューはグリーン・イエロー・レッドのカレー三種とサイドメニューが数種類、ドリンクはビール・コーラ・ジャスミン茶、デザートに至っては一種だけというシンプルさ。こういう専門店っぽい店には来たことがないので、素直に傾向を聞くことにする。

「どれが一番美味い?」
「俺はグリーンカレーかな」
「ふぅん……あんま辛くないのは?」
「イエロー」
「じゃ、イエローと、コーラ」
「辛いの苦手だった?」
「いや、そうでもないけど。気分の問題だよ」
「なら良かった」

 本当はあんまり得意でもないのだが、小山田に対する見栄でそう言ってしまっ……いや違う、ここは男の沽券に関わる大事なとこだ。ほっとしたような小山田の笑顔に小さな罪悪感を抱きつつも、仕方ないね、と自分に言い聞かせる。
 しばらくして出てきたカレーは確かに絶品で、俺は軽く興奮した。ちなみに小山田から一口貰ったグリーンカレーは辛すぎて……俺は必死にコーラを飲んでごまかしたが、コーラが!辛さに!負けていた!
 ウマいウマいと顔色一つ変えず、むしろ笑顔で食い進めている小山田はきっと変態か何かに違いない。イエローこそが俺のファンタジスタだ。


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あきゅろす。
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