あまい花

「あ」
「ん?」

 コースケが俺の頭を撫でてた手を止めて、ニィと笑った。

「噂をすれば」
「え?」
「ほれ、入り口んとこ。小山田」

 振り返って入り口の方を見ると、数人の男女の群れの中に確かに小山田がいた。うちの学食は結構広いので、この距離だとこっちには気付きゃしないだろう。

「あーやっぱ、なんつーの、オーラあるねぇあの人」
「まァな」

 小山田の周りがキラキラ光って見えるのは、俺だけじゃないはずだ。さすが、イケメンのコースケをして「神様が依怙贔屓しまくった」と言わせるだけのことはある。
 小山田は確かに新しい友人だけどもこんなとこでジロジロ見てもしょうもないので、まぁ今は唐揚げに集中しようと俺はテーブルに向き直った。あー唐揚げうめぇ。

「マサぁ」
「ん?」
「唐揚げいっこちょうだい。エビやるから」
「いーぞ」

ほれ、とコースケのうどんに唐揚げをポイと投げて箸で押さえつけて水没させてやったら、ははは死ねよマサ口開けろや、と不穏な台詞。恐ろしいので素直に口を開けた。

「ほら、一口で食えよ」

 ドロドロの衣がジューシー……な、エビ天ぷらを無理矢理口に突っ込まれ……これってイジメじゃね? イジメカッコワルイ!
 まぁそんなことコースケには言えやしないわけなので、黙ってドロドロの衣と見かけ倒しのエビを咀嚼した。それなりにうめー。

「エビって最高だな」
「うん、唐揚げはカラッとしてなきゃダメだよな」
「……どーもすんません」
「わかればいいんだよ」

 そんなアホなことをしていたので。

「ここいい?」

 俺はいつの間にか隣に立ってた小山田になんか、ちっとも気付かなかった。のだ。


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