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冬の日 P



「さ、さみぃー!」
刺すような冷たい風に身を硬くする。マフラーに顔を埋め、ポケットに手を突っ込み、中にあるカイロに触れた。だが少しも温かくない。
―これ昨日のじゃん。
今朝は日が照っていてぽかぽかと暖かかったのだ。そういえばカイロを開けた記憶がないなー、と上着に入れっぱなしだった自分のずぼらさに苦笑する。
「寒い寒い。レイあっためて〜」
横を歩く幼なじみに冗談半分、本気半分で言ってみると、ちらりと横目に一瞥されるだけに終わった。
別に何か期待していたわけでもないから特に気にすることもなくそのまま歩き続ける。
背中を丸めてのろのろと歩くシンといつもと変わらず背筋を伸ばして歩くレイとの間にいつのまにか距離ができる。
「シン、置いていくぞ。」
「わ、待って。」
慌てて隣に駆け寄ってまた二人歩き始める。

「寒い寒い寒い。」
「………」
「カイロ持ってる?」
「持ってない。」
「そっか。…寒いなー」
「…そうだな」
「ほら、手ぇすげー冷たい。」
ポケットから手を出してレイに差し出す。外気に触れてさらに冷たさが増したようだ。
しかし触れてきたレイの手の冷たさに逆に驚かされた。
「つっめた!!氷じゃん!」
「お前の手は言うほど冷たくないな。」
そう言って離れていく手を咄嗟に掴む。
「……どうした」
「あっためてやるよ。」
「………遠慮する」
「いーからいーから。」
冷たいレイの手にハァと息を吹き掛けると居心地悪そうに手を引っ込めようとする。
「もういい。十分だ。」
「まだ冷たいよ」
一歩、後退るレイに構わず、できた隙間を埋めるように一歩を踏み出す。
その繰り返しでいつのまにか道際にまで移動していた。
近くなった距離、視線を反らすレイの手を握る力を強める。





「…なぁ、まだ聞いたらだめなの?」
反らされていたレイの目が一瞬見開く。シンの言葉に弱々しく視線を戻せば真っ直ぐにレイを見つめる赤い瞳にかち合った。
その真っ直ぐな瞳に耐えられずにまた反らしてしまう。
「……俺、は…」
何を言えばいいのか、言葉が見つからずに下唇を噛む。

「………ごめん。」
何も言えずにいたレイにシンが小さく息を吐いてから謝った。
同時に強く握られていた手も離れ、あの真っ直ぐな瞳からも解放される。
「待つって言ったの、俺なのにな。…ごめん。」
そう言って自虐的に嘲笑を浮かべるシンに何も言えない。

シンからの気持ちに応えることが今の自分にできるのだろうか。今の距離が一番落ち着いて、これ以上踏み出すことができない。
それなのにシンから注がれる視線が、触れる体温が離れていくのが心寂しく感じてしまう。
そんな自分の気持ちがわからない。

「…レイ?」
すでに歩き始めていたシンが数歩前で振り返った。
「今、行く。」
氷のようだと言われた右手はシンの体温ですっかり暖かくなっていた。

残るシンの熱を逃がさないように拳を作ってポケットに入れたら体温が増したように思う。


「…どうした?」
なかなか歩き出さないレイを見やって不安気な顔をするシンに曖昧に笑う。


「――なんでもない…」









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