気付かない(レイ視点)
「好きな人とかさー、いないの?」
話の流れから自然、シンがそんなことを聞いてきた。
いつもメイリンやルナマリアたちがこの手の会話を始めると、我関せずといったように興味を失っていたシンが、だ。
まさか聞かれるとは思わなかっただけに、少し動揺した。
好きな人、いるさ。目の前にな。
もう隠しおくのが限界だったのかもしれない。
叶うことのないこの想いは、死ぬまで誰の目にもとまることなく心の内に留めておくつもりだった。
お前の隣にいれるだけで、それでいいと思っていたんだ。
けどお前がだんだんと心を開いてくれる度に、伝えてもいいんじゃないか、受け入れてくれるんじゃないかという馬鹿な期待が浮かびあがるんだ。
だからきっと、今日の俺は「いる。」だなどと馬鹿な返事をしてしまったんだろう。
「いるの!?」
驚きに見開かれるシンの目に映るは愚かな自分の姿。
この言葉にシンが少しでも動揺し、嫉妬してくれればいいなんて、
「告白とか、しないの…?」
「…叶わないからな。」
控えめに尋ねるシンにありのままを答える。
そう、叶わない想いなら、伝えても伝えなくても同じなんだ。
伝えてしまった方がつらいんだ。
「…人妻…」
「違う。」
「あ、そう…」
「お前はどうなんだ…?」
「お、俺?」
聞いてから後悔した。
これでもしシンに恋愛相談なんてされてしまえば…
いや、むしろ諦めがつくかもしれない。
「俺はそんなんいないよ。…モテないし。」
ム、といつもの不機嫌面で吐き捨てるように言ったシンに、安堵する。
まだ、友達として隣にいられることに。
「あ、もしかしてルナとか!? たしかにあいつは俺たちのこと男として見てないかんじはするけど…」
「違う。…もういいだろ」
「あー、うん…」
見当が外れたからか煮え切らない返事をしてまだ何やら考えている。
俺の好きな相手が自分だなんて、思ってもいないんだろうな。
「…言ってみたら?もしかしたら上手くいくかもしんないだろ。」
どうやら考え込んでいたのは相手のことではなく伝えるか否かだったようだ。
「無理だ。」
「なんで」
「………」
伝えてもお前は俺を軽蔑する、とは思わない。だけど距離はできるだろ?
隣にいたいんだ。受け入れられないのなら。
「言ってみないとわかんないだろ?」
後押ししてくれる、ということは俺に恋人ができることが何の苦にもならないということ。
「お前に言われるのは…なんだか複雑だな。」
「なっ、…たしかに俺、言えるほどの経験ないけど…」
「いや、そういう意味じゃない。」
「?」
「…今は、まだ。」
いや、これからもずっと。
叶うことのないこの想いは、俺の胸に秘めておく。
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