[携帯モード] [URL送信]
2



「ほら、シン、誰かいい方はいないの?」

つんつん、と肘で突かれてシンはますます眉間にしわを寄せた。

「だから、オレは結婚とかそういうのまだいいんですって。」
「まだって、もう20になるんだからさ、身を固めないと。」
「貴族様と違って世襲でもあるまいし、急いで結婚することもないでしょうに。」
「そうだろうけど、縁談の話がくるたびに断りをどうしようって逐一相談にくるのは僕だってめんど…耐えられないから、こうしようって決めたんじゃない。」
「言い直さなくても、面倒って言やあいいでしょ!それにですね、こうしようって決めたって?あんたが勝手に決めたんだろ!」
「縁談の話が来ないようにするには結婚しちゃえばいいんだから至極当然、想像に易いでしょ。」

ああいえばこういう…!

まったく、もっと頭を使わないとね、シン君。と穏和な笑みで言われても腹が立つ。いや、穏和だからこそ胡散臭いことこの上ない。
だいたい自分だっていい年のくせに未婚なのだ。そのくせオレには結婚しろとうるさい。眉間に刻まれたしわはどんどん深くなっていく気がする。跡が残ったらこの人のせいだ。といつの間にか集まった令嬢方を相手ににこにこと笑顔を絶やさない侯爵様を睨みつけた。



「キラ様、こちらは?」
「私の屋敷の専属騎士ですよ。先日国にも上がる武功を上げましてね。」

にこり、とこちらを見た侯爵様の笑顔には「あいさつなさい」という無言の圧力。
「…シン・アスカです。」
貴族様ってのはやることがいちいち儀式めいていて恥ずかしいことこの上ないが、ここ連日で彼方此方連れ回されただけあって慣れたものだ。令嬢の手を取りその甲に唇を寄せる。

「まぁ、大変栄誉あることですわ、最近の国にあがる武功でらしたら…」
「えぇ、此度の領地拡大の巨歩も彼の働きにありますから。」

まぁ、やっぱり!とどこぞの令嬢は侯爵様に向けていた、ちょっとギラついた瞳でシンを上から下までサッと見た。あ、狙われた。と思えば違う方からも「お話存じ上げていますわ!剛毅果断のご活躍でらしたとか!」とかなんとか、さっきまで侯爵に向いていた目がこちらにわらわらと集まって思わず後ずさる。

「そ、そんな大層なことではありません。自分はただ国の命に従って…」
「まぁ!ご謙遜なさって、至心な方ですわ」
「は…?し、しん?」

ししんってなんだ。ついでに言うとさっきのごうきなんたらってのもよくわかってない。学が足らないのはわかっていたことだが、このままここにいては難しい言葉であれよあれよという間にわけのわからぬまま頷いて結婚、とかもありえてしまいそうで、悔しいが侯爵に助けを求める。
やれやれ、とこれ見よがしに肩を竦められたが、今はそれを気に止める余裕はない。

「さぁ、今宵お招き頂いたアルスター郷へのご挨拶に伺わないと。申し訳ございません、お話はまた後ほど。」

それでも名残惜しげな令嬢を絶対の笑顔で黙らせ、その垣根を越えると途端にため息。

「わからない単語が出てきたからって吃りすぎ。学がないのがバレるよ?」
「…いいんです。必要ないんで。」

まぁ、そうかもしれないけど。といい加減見切りをつけたらしい彼に、一応来たなりにダンスくらいは踊って帰りなよ、という忠告を受ける。ダンスも好きではないが、作法やら礼儀やらを覚えるよりかは身体を動かす分覚えがいいと評判だ。爵位を賜っただけでこんなに苦労するなら貰わなかったのに。
まぁオレの一存で授与するはずの爵位をやっぱ取りやめーなんて出来なかったろうけど。

宣言どおり主催のアルスター郷の元へ挨拶に伺った侯爵の背に思いっきり顰めっ面をしてから会場を見渡すと、ひらひらと靡くレースのカーテンを見つけた。
恐らくバルコニーだろう。まだパーティーも始まったばかりだ。暗がりで愛を語らう男女もいないだろうし。とりあえずダンスまではあそこに非難しよう。
そう決めてしまえばシンは足取りも軽く、揚々とバルコニーに繋がる仕切りのカーテンを開け放ったのだった。



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!