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パラレルラインの可能性



オレと、レイが並んで座っていた。
あいだに人ひとりが座れるくらいの距離をもって、ベッドに。

へんなコスプレをしている。オレにはこんな趣味はないのだが、二人そろってマンガやアニメのキャラが着るような服を着ているのだ。もしかしたら寝る前に読んだマンガが原因なのだろうか…。
さらに座っているベッドは見慣れないもので、その部屋も、なんだか無機質で冷たそうな壁に覆われた、見たことのない部屋だった。やっぱり、そこもマンガの影響を受けたような部屋だった。


部屋はごくごく静かで、ぱらりと紙の擦れる音と、空調の音なのか、静かにゴォという機械音が聞こえる。変なとこでリアルだなぁ。と不思議な第三者視点で自分たちを見ていた。
レイは黙って本を読み続けていて、俺はそんなレイを横目に膨れっ面でなにか言いたげに視線を送っている。

さて、オレは何故にこんな顔をしているのだろうか。
答えは簡単、レイが相手をしてくれないからだろう。夢の中でもコレかよ。と若干情けないような気がしないでもないが、わりとよく見られるいつもの光景。まぁ、自分で自分を見るのは初めてだけれども、ルナなんかに称されるぶすくれた顔ってやつなんだろう。

「なにか言いたいことがあるなら、そうしていないで言ってみろ。」
ぱたん、と本を閉じたレイは、やれやれとばかりに俺を見た。
そうそう、このかんじ。夢でもしっかり再現されるなんて、オレってばすごい。

「っ、別に…」
なんでもないよ。とさっきまでの刺すような視線をなんとも説得力のない顔で返して、俯く。

なんだなんだ、オレ。
はっきりしないな。と本人ですらそう思うのだ。きっとレイは呆れ返ってまた読書を再開するのだろうな。はぁっ、といつもの聞こえよがしなため息が聞こえるだろう。…と思えば、レイはひとりぶんの距離をゼロにして、そんなオレを覗きこんだのだ。

(う、っわ…)
二人を正面から見るようなアングルだったから、思わず夢の中のオレがレイにキスされてるみたいに見えて、ぞわりと背筋に寒気が走った。

「言いたいこと、あるんだろう?」
甘い声だった。けれど揶揄するようなそれを囁いたレイが離れる前に、俯いていたオレは顔を上げて「わかってるくせに。」と毒づく。

ちょ、ちょっとまて、そこで顔を上げるなオレ。正直、視覚的にとても見れたものじゃないし、しかも雰囲気が怪しすぎる。

ベッドに置かれていた二人の手が重なっていた。
僅かに頭を傾けてさらにレイに近づこうとしたオレから、ヒョイっと遠ざかったレイは元の位置に座り直した。

(…まじかよ……)
夢というのはその人の潜在的な意識であったり欲望とか願望。そういうのが反映される、とか聞いたことがあるようなないような。

勘弁してくれよ、ありえないだろうと頭を抱えるオレの気も知らず、夢のオレは重なったままの手で、指を、レイに絡めていた。

「堪え性のない奴だな。」
「煽ったくせに。レイの、性格が悪いだけだ。」



ぞわわわっ、と夢の二人のやり取りに鳥肌が立つ。
煽る煽らない以前に煽られるなよ!とその横っ面をぶっ飛ばしたくなる。だって、お前、それは、レイなんだぞ!
正気に戻れ!といまさらなことを念じてみても、絡んだ指先が解かれることはなく、むしろオレはレイの手の甲に爪を立てるくらいに離さない。

「レイ…」
雰囲気、怪しいなんてもんじゃない。オレは一体どうしてしまったのだろうか。身を乗り出してレイに詰め寄って、あまつさえなんだ、その顔は!
好きって言うほうがまだましなくらい、こういうのを熱い瞳だとか熱を帯びただとか、とにかく恋愛小説やらで表現されるような顔をしているのだ。

ギャーッと絶叫しても足りないくらいに、これほどに見ていていろんなモノを失いそうなラブシーンはないと思う。片方は自分、もう片方はよく知る友達、男。
もう頼むから覚めてくれと頬をつねってみたら痛い、ような気がした。…あれ、夢だよな、これは夢だよな!?わたわたと動揺しまくる、そんなオレを、夢のオレとの距離を僅か数センチに詰め寄られていたレイが見た。

目が合った。夢のレイと。


その瞬間、レイはすっと口角を持ち上げて笑う。
どうした?とレイの視線を追おうとした夢のオレを制して、見せ付けるように濃厚なキス。
それはもう顔を反らすのも覆うのも手遅れでその衝撃シーンをまざまざと見せ付けられたわけだ。しかし他人とはいえない二人だけれど、夢とはいえこんなところに立ち合うこともない。
もう、まばたきすら忘れて見入った。




「…っん、」
漏れたのはどちらの声か、ちらちらと赤い舌が絡み合うのが見え、水音が増す。角度を変えるたびに溢れる唾液がレイの口の端から流れた。

漸く離れた頃には二人とも息が上がってて、唇は真っ赤で濡れている。

「レイ…、いい?」

耳たぶをはみ、そのまま唇で顎の形をなぞって首筋に顔を埋める。

レイはそんなオレを受け入れるように首元の黒髪を梳き、こちらを見た。
ぼんやりと濡れた瞳と上気した頬はまるで見たことがない。ぞくりと背筋を走った疼きは、さっきまでの嫌悪感なんかではなく、オレは自分が無意識に唾を呑む音を聞いた。

レイは笑う。そういえばあいつはオレを認識しているのだろうか。…問う術はないけれど、いや、そもそもこれはオレの夢なのだ。
となると、オレは心の深い深い場所でレイとこうなることを望んでいるのだろうか。最初は明らかに嫌悪の対象でしかなかった夢の中の二人のやりとりが、今は甘い疼きになって刺激する。夢の自分すら煩わしい。


レイがだんだん、触れたい対象になってくる。

でも実際、レイとオレはこんな仲ではないし、レイのこんな表情だって見たこともないしこれから見ることだってないだろう。夢だから許されるのだ。
ギリと噛んだ奥歯、ぎゅっと拳を握り締めたオレに、レイは「ありえないことじゃない」と言った。

えっ?と思っていつの間にか伏せていた顔を上げる。何に対してか、そもそもがオレに向けられた言葉なのか。見ると、レイはしっかりとこちらを見ていた。

「これも、ひとつの 可能性だ。」



瞬間、ぐにゃりと捻れた世界は崩壊して、目の前には見慣れた天井とけたたましく鳴るアラーム。
戻ってきたのか…、と無意識に思う。夢なのだから戻ってきたはおかしいが、それがしっくりくる。

可能性…、できる見込み、論理的に考えうること、現実性、必然性。辞書を引けばでてくる単語に、ひとり赤面した。








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