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「シン、随分と疲れているようだな。」
「あ?………ああ。」
「?」
帰ってきたシンと丁度鉢合わせ、下手をすれば戦闘後よりも疲弊しきった身体を引きずっている様子に声をかければ、不機嫌な返事と据わった目での視線が返ってきた。
「レイ。」
「なんだ」
「散っっ々な目に合った。お前もちょっと恨む。」
ずいっと突き出されたのはピンクの可愛らしい紙袋。シンが持つのに激しい違和感だ。
「なんで私が恨まれなきゃならないんだ…。」
取り敢えず受け取り、これは?と問う。
「ルナとメイリンが選んだんだからな!オレは金払わされただけだ!」
「はぁ?」
言うだけ言って足早に歩いていってしまうシンを追いかける。シンは早歩きでもレイは小走りだ。
「なんだよ、」
なんで付いてくんの?と歩きながら聞いてくるシンになんでも。と返せばふぅん、と気のない返事。歩く速度も変わらない。…怒ってる。何をそんなに怒っているのかわからないが、原因はあの姉妹だろう。
シンに続いて部屋に入れば、なんとも微妙な顔をされた。
「なんで今日に限ってひっついてくるかな。」
「ダメなのか」
「……別に。」
いいけどさ。とちっとも良くなさそうに椅子に座る。
けど私だってせっかくの休みだ。街に行っていたシンが帰ってきて、ちょっと一緒にいたいとか思う。
しかも、ただ振り回されただけだろうけど、今日は1日ルナマリアやメイリンと過ごしたのだろう。あまりいい気はしない。
ベッドに腰掛けた私を見て、シンは小さくため息を吐いた。長居しそうな私に早く帰れとでも言いたいのか。けれどそれきり何も言わない。
なんとなく手持ちぶさたになって、先ほど渡された紙袋を手に取る。
小さく軽い。いったい何が入っているのだろうか。
「ちょっ、待て。ここであけるな」
「どうして?」
「んなもんここで開けられたら困るからだろ。」
「困る?」
ルナマリアとメイリンは一体何を買ったのだろうか?
気になる。
「…ルナマリアとメイリンが選んだんだろ?」
「お…おぅ…」
「文句は2人に言う。」
「わっ、こらっ、開けるなって!」
ぺしゃ、とシンが紙袋の口を押さえてしまって見ることは適わない。
「シンには関係ないんだろ?」
「そ……、それでも、だめ。」
「………。わかった。」
後で1人で見る。と言えば、絶対だな?と念押しをしてやっと離れた。
いつも以上に頑ななシンに、余計気になるが言ってしまった以上は仕方がない。しかし関係ないと言いながらこれでは多少はシンも関係してると言っているようなものではないか。
紙袋を脇に置くと、漸くシンも落ち着いたように私服の上着を脱いだ。
「ポケットに何か入ってないか?」
ベッドに投げた上着、なにか重みを受けて少し跳ねた気がする。
「あ……、うん…。それも、土産。」
「土産…。」
「お前にな。」
「私に?」
ならこれと一緒に渡してしまえばよかったのに。と思ったが口にはしなかった。さっきは恥ずかしそうだったのが、今度は照れているような、そんな気がしたから。
シンが上着から取出し、投げて寄越したのを慌ててキャッチする。少し高価そうな、長方形の箱。アクセサリだろうか。
「土産、という品ではなくないか?」
「別になんだっていいだろ。じゃあプレゼントだ。」
「………。」
「なんとか言えよ」
「…シンでも、こういうものを贈ったりするんだな。」
「お前なぁ、……あー、もういいや。別に。」
それくらいの反応の方が気が楽かも。とぐったりと椅子に背を預けた。
「開けてもいいか?」
「もうお前のだから好きにしろ」
照れ隠しが見て取れる。
出てきたのはネックレスだった。シンプルなシルバーチェーンに小さめのトップ。これは…シンが選んだのだろうか?それともルナマリアたちにせっつかれてしぶしぶ買ったのか…。
「なんて渡そうか、って思ったけど…なんとかなった。」
よかったー。と息を吐き出してから思い立ったように立ち上がり、にこりと笑った。
「つけてやるよ。」
「え?」
貸して、とネックレスをひったくり隣に座る。
(…後ろ、向かなくてよかったのか…?)
留め金を外したシンが、両肩の上に腕を回した。まさか正面から着けようとするとは思わなくて、聞くタイミングも逃してしまった。まぁ、別にいいか、とされるままにしていたけれど、
(………ちかい、…)
意識すると気恥ずかしい。渡すのに照れていたみたいだが、これをするのは恥ずかしくはないのか?と問うてやりたい。…そんなことを問う余裕なんてないのだが…。
「よし、…似合うじゃん。」
俺が選んだだけのことはある。とシンは満足気に頷いたあと、ネックレスに注いでいた視線を上げ、固まった。
…たぶん、私の顔が真っ赤だったから。
シンが悪いんだ、変なところで鈍感だから。顔を隠すように俯いて、ネックレスのトップを指先で弄る。きらきらと小さな宝石が輝いていた。意図せず、シンが選んでくれたのだということも分かって、嬉しさもない交ぜになる。
「……ありがとう…」
「………。」
口を出た感謝の言葉に反応がない。
(何か言ってくれないと妙に恥ずかしいんだが。)
両の手にシンの手が重なって、そこでやっと顔を上げる。
じっとこちらを真面目な顔で見つめるシンと目が合うと、ぎゅ、と手に力が込められた。
あぁ、くる。と思った。
…けど目を閉じて待てる気概も経験もない。
じっと見つめ返す私に可愛げなんてものはないだろうけれど、シンは何も言わないでそのまま私を引き寄せた。
唇が離れて、目を合わせることが恥ずかしくてそのまま俯く。
「ネックレスのお礼に、…その…、もらったってことで。」
だめ ですか、となぜか敬語になったシンに吹き出す。
さっきまであんなにかっこよくキスしていったくせに。
「おっ、おい、笑うなよ…割と真剣なんだから…」
「っ、すまない…。」
そのままシンの肩口に頭を預ける。わっ、と驚いたシンが、どうした?と問うのに、なんでもない、と額をこすりつけるように頭を振って応えた。とてもじゃないがこんなセリフ、面と向かって言えるわけがないから。
「これでいいなら、…いくつでも、もらってくれ。」
おわり
忘れ去られた下着ですが、レイたん開けた瞬間フリーズするけどシンが選んだやつは割と気に入って着けてたらいいと思います。はじめてのよるはシンが選んだ下着を着けててシンがウホッってなるとか。
慣れてきたらヒモとかすけすけ。
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