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別に ただのお土産です



ミネルバの物資補給のために降り立った軍基地。そこからほど近い場所に港街があった。幸いコンディションはグリーン。クルーたちの良い息抜きになるであろうと、哀れな居残り組以外に上陸の許可がおりた。

そしてその哀れな居残り組の中にレイがいて、残念、と肩を落とすホーク姉妹に対して、当の本人はさして気にとめた風もなくただ、楽しんでこい、とだけ言ったのだった。


「残念だったわね〜、シン。せっかくデートのチャンスだったのに」

「……デートねぇ…」

「なに?デート、したくなかったの!?」

「いや、そんなんじゃないけど。」
例え居残り組でなかったとしても、あいつはミネルバから降りて買い物なんかに行くだろうか。と声には出さず遠い目をすれば、なんとなくわかってしまったのか、ルナはそれ以上なにも言わなかった。


「じゃあシンはどうするの?」
レイとミネルバに残るの?と口元に指をあててメイリンが尋ねる。

「オレも行くよ。買い物頼まれたし。」
ついでにレイに何か土産でも買ってきてやろうかな、なんて思って。
顔を見合わせてにやけるホーク姉妹には気付かなかった。






そして、あれよあれよという間に引っ張り込まれたランジェリーショップで怒りに震える拳を握りしめるに至ったオレは、キャッキャと下着選びをする2人を睨み付けているのである。

「なに?そぉんな怖い顔しちゃって」

「そーだよ、他のお客さんの迷惑だよ?」

「お ま え ら…!」

確かに、怒りを顕にする自分に若干の戸惑いの視線は感じるが、抑えろというのも無理な話だ。
とにかくオレは出る!と言えば引き止められて、どれがいいか決めてくれたらね!と目の前に広げられるひらひらの下着に怯む。そんな繰り返しである。

「なんでオレが…」

「レイにお土産よ」
あっけらかんと返すルナにうんうん、と頷くメイリン。



「ていうか、レイって普段どんなの着けてるの?」

「そっ、んなの…!知るか!!」

「照れない照れない、今更じゃない」

「知らないって言ってんだろ!」

「もぉ、だからそんな嘘いいってばぁ。」

さぁ、どうなの!?と寄ってくる姉妹に、シンはうぐぐ…と口を閉ざして顔を背けた。

そんな様子に2人は顔を見合わせ、うそ…、ほんとに?まさか…、と小声でやり取りした後、シンの両側を固めた。


「まだやったことなかったの?」

「ぶっちゃけちゃうと、どこまで?」

「キスくらいしたわよね?」







「お前らには……関係ないだろ…。」
次第に不機嫌に、けれど顔を赤くしたシンに2人は何となく察した。

(キスすらまだ…か…)

(まぁ…、レイはちょっと手強いかもしれないしね。)(…いいえ、きっとレイは大事にされてるのよ、いいこといいこと。けれど悪く言えば、ヘタレなのね。)
以上、姉妹の目での会話。

「割と手が早そうなだけに…意外…」
ぼそりと呟いたメイリンに、ぷっと吹き出したルナ。
キッと睨むと、メイリンは、わぁっ、ごめんっと両手で口元を押さえた。
息を吐き捨て、オレは帰るからな。と踵を返す。


「待って待って!選んでから!」

「だからなんでオレが!」

「恋人でしょ!?むしろこれをチャンスに!」

「なっ!?」

滅茶苦茶を言う2人がそろって下着を手に笑った。完全に遊んでる。
「くそ…、選べばいいんだろ、選べば。」
適当に選んでさっさと帰る。最初からこうしてれば良かったのか、なんて思ったりしたけど後の祭りだ。

「そうそう、選べばいいのよ!あっ、これなんてどう?」

そうだ、こうやってルナたちが選んだのをそれいいかも、なんて言ってしまえば終わりじゃないか。

「ああ、それなんか……」
(……ヒモ…じゃないか…)

「脱がせやすいわよ」
「却下。」

えー、なんで?と言うルナマリア。脱がせやすいとか言われてそれにしたら脱がしたいみたいじゃないか。

「シン!これがいいよ!」
これ、すごく可愛い!とメイリンが差し出したのはピンクでひらひらで、あぁ、メイリンらしいな。ちょっとレイのイメージにないけど、まぁ似合わないこともないだろうし、

「いいんじゃ…」
(すけすけじゃないか…)

「却下。」




じゃあ、これは?これなんかどう?と差し出される下着をことごとく却下し、結局はシンが自分で選んだレースの付いた割と控えめな下着に落ち着いた。

この店の下着はどれも派手だ。だからしょうがない。大事なとこが透けてないだけまだましだ。不可抗力だ。…まさか女の下着がどれもこんなのの筈はないよな…いや、まさかそんな…と、レイがここにあるような下着を着けているのを想像しかけて慌てて頭を振った。

「っ、さっさと会計済ましていくぞ!!」

「はいはーい。じゃ、ついでにこれも」

「これも!」

ぽいぽいっと渡されたヒモのやつとすけすけのやつ。

「お、お前ら自分が欲しかっただけかよ…」
ていうかオレに払わす気か。


「まっさかー。全部レイのよ」

「は?」

「はじめてのよる…レイはどの下着で挑むのか楽しみね!」

「あほかっ!」

パチンッとウインクをしたルナの頭を叩き、下着を戻そうとしたが、悲しきかな、男の性というのか、それを戻すことを非常に、強く拒否した。なんというか、手から離れてくれない。

(選んだのは…、ルナとメイリンっ、だしな!)


「ねぇ、行くんでしょ?」
早くしてよー。なんて、人の気も知らずに…!

「今行く!!」


これ選んだのはオレじゃないし!!




しかしその後もホーク姉妹の拘束は続く。
ねぇ、もうレイにお土産買わないの?なんて散々荷物持ちに使い果たした挙げ句聞いてきた。
もういい、あげない。と言い掛けて、ふと目に止まったのが小さな宝石のついたシンプルな指輪だった。
ちょっとレイに似合うかもーなんて、思ったり。

「あれあげるの!?いいよいいよ!!絶対レイも喜ぶ!」

「いや、別にあれあげるなんて…」

メイリンが騒ぐものだから、気付いた店員まできやがった。
「いや、指輪なんて邪魔になるだろ。」
「そんなことないよー!」

にこにこ、店員も頷いてとってもシンプルですけれど、可愛らしくて人気なんですよ?とか言ってくる。

指輪は流石に、いきなり渡すのとか無理。
「いや、サイズとかわかんないし…」

「あ…、サイズかぁ…」
メイリンも盲点に気付いたように諦めかけた。

「だったら、同じデザインのネックレスはどうです?」

メイリンの目が輝いた。


ちくしょ、この店員め…!










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