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父親宣言撤回 ♀P



足を踏み入れるといつもレイからするいい匂いがいっぱいにして、不覚にもドキリとしてしまいました。




「相っかわらず本ばっかの部屋だな。」
胸の高鳴り?なんですかソレ。みたいな、別に久しぶりに入るレイの部屋に緊張なんかしてませんよ。みたいな。そんな、興味のなさ気な声音で呆れた風に言ってみる。
まぁ、よくドラマや漫画に出てくるような女の子の部屋とはかけ離れた部屋であるのは事実で、若干呆れた感に真実味が帯びているのは否めないが。

1人部屋にしては広いレイの部屋。本棚があってベッドがあって机があって、真ん中にローテーブル。シックにまとめられたその部屋は綺麗に整頓されているが色気がない。可愛げがない。さらには前より本が増えているようで、女の子の部屋というよりお父さんの書室みたいだ。…いや、もっとも、オレの父さんは書室なんか持ってないから単なるイメージにすぎないですけど。


「適当に座っててくれ。何か飲み物を持ってくる。」
鞄を置いてひらりと制服のスカートを翻してレイは部屋を後にした。
惜しい。見えそうで見えないあの絶妙なスカートの長さ。


適当に、と言われて無難にローテーブル近くの座布団に胡坐をかく。ぐるりと見渡した部屋にはやはり色気も可愛げもない。

がしかし、やはり気のせいか、という結論には至らない。そう思いたいけれど、レイが最近色気づき始めたのはまごうこと無き事実なのである。

あのスカート丈。前より短い。はるかに。いい匂いだってそうだ、あいつ香水をつけているに違いない。そしてさらに唇はプルプルのピンク色だ。
他の女と比べれば全然化粧っ気のない装いだけど、昔からレイを知っているオレからすれば劇的と言える変化なのである。


おそらく…レイは、恋をしているに違いない。
そう結論に至ったのは上記の変化に加え、オレの勘とレイの節々に見られる行動に起因しているのだがここでは割愛しておくことにして、

どこのどいつに惚れてるのか、決定的な事は何一つわかってはいないが、それはきっと、否、確実にオレの思い過ごしなんかではないのだ。





「少しは勉強する態勢を整えようとは思わないか」
ジュースを手にレイが呆れた風に戻ってきた。

座ったままレイを見上げると余計に際どい。

「…今準備しようとしてたトコだよ。」
くそぅ、色気づきやがって…。赤くなりそうな顔を反らしてすっかり抜け落ちていた勉強という目的を思い出す。
正直勉強なんてただの言い訳に使っただけだから乗り気じゃない。部屋にもっと決定的な何か、例えば想い人の写真なんかをコッソリと… なんてことがあるかとも思ったが…

(!?……まさか、どこかに隠して…)
思い立った瞬間勢いよくぐるっと部屋を見渡したオレにレイは目を丸くして「どうかしたか?」と問い掛ける。

…さすがにオレが来るとわかって写真をそのままにするわけないか。一番怪しいのは机の引き出し、はたまたクローゼット。
(開けれるわけない…!)

低く唸ったオレにレイは「こいつ大丈夫か?」みたいな視線を隠そうともせずに向けてくる。

「…なんでもない。」

「そうか…?」

「ん。」







なにか、なにか掴めればいいんだけど…勉強を教えてもらいつつ、考えるのは何か決定的な物はないかということばかり。

「聞く気、ないだろ」

「え!?」

はぁ、と溜息を吐いてレイはシャーペンを置いた。

「珍しくやる気を出したかと思えば…、ちっとも聞いてないな。」

「ご、ごめん…」

勉強教えてと言ったのはオレだ。しかも目的は別にあって…、さすがにこれは全面的にオレが悪い。

レイからの視線が痛い。痛すぎて頭を垂れる。いたたまれません。



「………。聞く気がないなら、私は私で勝手にやらせてもらう。」
もう一度溜息と共に立ち上がった気配がした。

怒った。怒ったけど…追い出されなくてよかった…
垂れていた頭を持ち上げて、もう一度。
「レイ、ほんとごめん な゙…」


変な声が出た。
机の上段にある参考書に手を伸ばしたレイはこちらに背を向けている。
揺れるスカートの裾は伸ばされた腕のおかげでギリギリまですりあがっていて、


ぐおぉ!!み、見ちゃだめだ!
あぁ!でも、あと少し…!





「首、どうかしたか…?」

いつの間にか参考書を手にこちらを振り返ったレイと目が合う。不自然に右に傾けていたオレの頭を言っているらしい。

もうちょいで見えそうだったからつい…

「えぇ!?あっ、いやっ、……首の、ストレッチを、な…ははは。」

左に、右に、数回首を傾けて見せて誤魔化す。ついつい乾いた笑いが漏れた




「シン……、今日はどうかしたのか?いつもと様子が違う。」
訝しげな眼差しを向けられたが、変わって心配そうに、ふわりと香る香水の匂い
参考書を置いて、ずいっと身を乗り出したレイにあわてる。

こいつはほんとに無駄に色気をばらまくようになったな…!



「ち、ちかいって、」

「ぁ……っ、すまない」

すぐさま離れたレイの頬に赤みが差す。こっちまで伝染したみたいに顔が熱くなった。
なんだよ、この甘酸っぱいかんじは。



「そーゆうのは、…好きな奴にやれよ」

「?」

「いるんだろ!…その、好きな奴が。」

香水とか化粧とか、そいつのためだろ。オレまで誘ってんな、なんて、さすがに情けなすぎて言えないけど、ちょっとした強がりにしっかりとレイを見据えてやった。





「………は?すきな、ひと…?」

「………え?ちがうの?」

レイが目を瞬いて、まさに寝耳に水。まったくオレの言葉が的外れであるかのような顔で聞き返すものだからついつい逆に聞き返す。







「……なぜ…そう思った」

たっぷりと数十秒は見つめ合った後、先にレイが顔を反らし、そう問うてきた。頬がほんのりと赤い。

(あぁ、やっぱりいるんだ…)
しかしなぜと問われても要約してしまえばそれはオレの勘7割と残りレイの色気なのだから言葉に詰まる。

そして存外オレへの精神的ダメージが高い。
自信はあったけど勘違いであって欲しかったような…そんな矛盾。
昔から一緒に育った姉のような、妹のような、そんなレイがどこぞの馬の骨とも知らぬ男に…!
この心境はさながら父親のようである。そう、父親だ。娘はやらん的な!!


「勘だよ、カ ン。で、誰なんだよ」

そいつはとりあえず殴る。簡単にレイはやらんからな。


「そこまではわかっていないんだな。」
人がここまでやっているのに。
むすっとぶすくれて唇を尖らせる珍しく子供っぽいレイの仕草になんとも女の子らしさを見てオレは必死だ。


「オレの知ってる奴?」
まさかこのレイをここまで本気にさせるとはとんでもないダークホースの到来だ。とりあえず吊し上げるしかない。


「知ってるもなにも…」

視線をさまよわせ、それから小さく、けれどしっかりと息を吐いてレイは言った。




「お前なんだから、よく知ってるんじゃ、ないか?」



「………え、」
拗ねた顔でそっぽ向くレイの顔は赤くなってて、冗談なんかではないことが伺える。というかまずレイがこの手の冗談や嘘なんか吐くようなやつじゃない。


「返事くらい聞かせろ。」
聞いたのはそっちだろ
と言葉は強気なくせに黙り込んだオレを見つめる瞳は不安げに揺れている。



思わずきゅんときた胸をおさえる。
そんな、だってオレは父親のような心境で、しかもレイとは幼なじみで…ぐるぐると思考は巡る。巡り巡って、けれど時間はさほどかからずに結論はでた。



とりあえず父親宣言は撤回という方向でお願いします。










あきゅろす。
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