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青春なんぞ P



夕日が射し込む放課後の教室、なんて青春恋愛ドラマなんかにありがちの絶好の場所だと思う。
みんなが帰って静まり返った教室は普段のそれとは全く異なった姿をしているような気がする。いつも過ごしている教室とは違うような、そんな錯覚。
遠くから聞こえる部活動に勤しむ部員たちの掛け声もどこか希薄で、静かに流れるBGMのように耳を通り抜けていく。
まるで世界に自分1人みたいな、ちょっとしたセンチメンタル感じてみたり。恋人同士なら2人っきりな空間に気持ち高まっちゃったり?…オレは経験ないけど。

とにかく、みんなそんな雰囲気に飲まれて放課後の教室で黄昏てみたり秘密の共有しちゃったり青春するんじゃないですかね。
で、そんな教室で黄昏ちゃってるオレは十分に青春してるんですかね。もしそうなら青春ってちっともいいもんじゃないです。

「あーあ、」

額を机に打ちあててうなだれる。青春っていえば今ごろレイも隣の隣の教室で女の子に告白されてるんです。

「いいな…」
羨ましい。とんでもなく羨ましい。

うなだれたまんまに窓の外へ目をやれば西日が痛いくらいに突き刺さる。
あぁ、くそ、眩しい。目を閉じても瞼の裏が真っ赤に染まるだけでまるで効果がなくて頭を反転。いまだにちかちかする視界が異空間であったような教室にさらなる拍車をかけて現実味をなくす。
オレだって夢なら言えるのに。ここが現実じゃなかったら…

ってだめだ。なに浸っちゃってんのオレ。これも青春ですか?お断りだよ。
瞼を下ろして視界をシャットアウト。もう瞼の裏側は赤くはならない。現実に引き戻された気分。


「さっさとフラれちまえ」
レイと喋ったことすらないであろう名前も知らない女、よくそんなんで告白しようとか思うよな。
オレはずっとレイの隣にいるけど告白なんか夢のまた夢だ。


…ああ、そうです。オレは告白されてるレイが羨ましいんじゃなくてレイに告白できる女どもが羨ましいんです。
どんなブスでも女だったら1%くらいは可能性があると思うんです。まぁレイに告白する女にそんな勇気のあるブスはいないんだけど。

みんな揃いも揃って可愛いのやら美人のやらがこぞってレイに群がるから気が気じゃない。ほんとに、レイが色恋沙汰に興味のない、であろう冷めた奴であることをこれほど感謝したことはないわけで。
今日もきっとばっさりとフッてしまうんだろうと思うんだけど、やっぱりレイが告白されてるこの時間は不安でいっぱいになる。
魔が差して…とか、なきにしもあらずだろ。



「あー、オレ女だったらよかったのかなぁ」

う……気持ち悪いよ、おぇ。
でも、それでも1%の可能性が手に入っていたわけですよね。けど、オレはレイに欲情だってするわけで、どっちかっつーと女役より男役がいいんです。
レイが女だったらって考えたこともあります。それなら万事オーケー?うん、レイってきっと可愛いと思う。嫁に欲しい。

嫁…。家に帰れば出迎えてくれて、ご飯にする?お風呂にする?それとも…とかいう展開か。たまんないな。そしてこれを現実逃避というのか。思春期特有であると言ってくれ、誰か。そしたらなんでも許される気がするから。



「ここにいたのか」

「ん?」

そんな1人だけであった邪念渦巻く空間にレイが入り込んできた。特進科のレイと普通科のオレとじゃ同じクラスになったことがないから、これもまた普段とは異なる光景だ。
そんなこと気にも止めずにずかずかとオレの前の空いてる席に横向きに座って夕日を眺めてる。

「電話をいれたんだが、気付かなかったか?」

電話、電話…ああ携帯、カバンの中かもしれない
「あ…ん、ごめん。」

レイはそれを気にした風もなく黙って夕日をみてるから、オレも頭は机に預けたままにもう一度顔を窓側に向けた。先ほどよりだいぶ弱くなった西日はやさしくオレたちと教室を包み込んでいる。

ちょっと前までは、これで満足してたんだけどな。
レイの幼なじみで親友。会話はなくともこうやって隣にいる関係。
でもさ、今ではこれを足りないと思ってしまうんだからオレってば強欲だ。これ以上ってただの男友達でする?ぎりぎりセーフ?アウト?境界線がわからなくなってくる。

「もしかしたらセーフかも」

「なにが?」

「いや…こっちの話」

レイは黙った。顔は見れないけど、きっとわけがわからんといったような顔してんだろう。
「なぁ、レイ、」
言いながら身体を起こして、オレのうなだれていた机に置かれたレイの手に自分のを重ねてみる。
きっとこれは青春恋愛プレイスにおける魔の因果か、オレはすっかりこの雰囲気に飲まれてしまったと言い訳してみる。

「なんだ」
あ、セーフか。これはセーフなんだ。

「あの子、フッた?」
こっちを真っ直ぐに見てくるレイと視線を合わせづらくて、オレは左手で頬杖つきながら頑なに外を眺める。でもレイと重ねた手だけはさっきよりもぎゅっぎゅっと手遊びみたいに力をこめてみたり。

「…ああ。」
そしたらレイが抜け出そうと手を動かした。これは、アウトか。もうちょいいけると思ったんだけどなー。ドンマイ。
いやいや、泣くなよオレ。がんばれ。

これ以上変に思われたら嫌だし、おとなしく引き下がろうと手を離すと、意外にもレイは手を反転させただけで、今度はオレの手がレイに捕まった。

全く、予想もしていなかった展開である。レイがどんな顔でこれをしてるのか、見たいけどレイはさっきのオレみたく頑なに外を見てるし、オレはオレでそれ以上レイを見ることができないくらいに頭ん中がくるくるパーになってます。

高校生の男子が放課後の教室で手を繋いでるなんて傍からみたらとても寒い光景なのだろうが、今ここにはオレとレイだけで、そんな野暮な傍観者はいない。前述にあったように皆さんきっとこんな教室を異空間のように錯覚し、常ではできぬ行動なんかに出てしまうこともあるのではないでしょうか。オレは今そんなかんじです。

「レイ、」

「なんだ」

互いが互いを見ずに夕日眺めて、でも手だけはちゃっかり握って。おかしいですよね。でもオレ、結構気持ち高まっちゃったりしてます。放課後の教室ってバカにできない。



「…好き、かも…」



赤みが差したようなレイの顔は夕日のせいだけじゃないかも しれない。




青春?黄昏てみたり放課後の教室で秘密の共有してみたり?

それってありかもしんないね。









あきゅろす。
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