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前方に揺れる金髪を見つけた。とたんに気分は高揚して口角が上がる。さっきの演習で過って(勢い余ってしまったと本人は言っていたが――絶対にわざとだ)殴られたために切れた口内がピリッと痛んだがその痛みも、怒りも彼の姿に綺麗さっぱり消散する。

「レイ、」
呼び掛けに振り返ったレイはいつもと同じ表情で立ち止まる。返事もなければ、たいした反応もみせないけれど、呼べば待っていてくれて、小走りでその隣に立つと何も言わずに歩きだす――いつもなら。

「レイ?」
行かないのか?と尋ねれば立ち尽くしたままのレイが腕を伸ばして口の端に触れてきた。突然の行動に驚いてビクリと震えた身体にレイが痛かったか、と指を離した。

「別に痛くないけど。ちょっとびっくりしただけ」
突然触れてくるとは思わなかった。白くて細いレイの指はちょっと冷たくて、
少し名残惜しい。

「また喧嘩か」
「喧嘩じゃないよ、さっきの演習で…事故みたいなもん」
「そうか、」
「心配した?」
「ああ。また教官と揉めるようなことは勘弁願いたい」
「あっそ」
やっぱりツレない態度のレイに肩を落とす。別に心配してほしいわけじゃないけど、
レイが俺を気に掛ける。それがとてもたまらない。

さっさと歩きだしたレイを慌てて追い掛ける
「どこ行くんだよ、」
今日のカリキュラムは終わり、宿舎は反対だと腕を掴めば、医務室にきまってるだろ、当たり前のように返される

「…レイ、具合悪いのか?どっか怪我したの?」
「はぁ…、」
どこか哀れみを含んだ、馬鹿にしたようなレイの視線。心配してやったのになんだ、お前と違って俺はいつもお前のこと気に掛けてるんだぞ!

「怪我をしたのは、お前だろ」
言いながらレイが指を一本立てた
「?、別に痛くなっ…!?」
なんだろうと思っていたらその指で加減なく傷を突かれて、(いや、抉られたかもしれない)
「いっっ…たいだろ!!何すんだよ!!」
「だから医務室に行くといった」
なんて横暴!
口元にうっすらと笑みを湛えて踵を返したレイに、痛いと喚いた手前、頑なに突っぱねることもできなくて、仕方なく、本当に仕方なくレイの後に続いた。

ていうか、最初に触れたときはあっさり離したくせに、2回目は突くってどういうことだよ
しかも笑ってさ、
ドSかっつーの
イライラむかむか。俺がレイに怒らないと思ったら間違いだぞ。
あぁ、そういえばつい最近ルナにレイの犬のようだと揶揄された。

いっつもレイについて回ってる忠犬みたいよ?ああ、そうやってすぐ怒る。レイに言い付けようかしら。とかなんとか。
好きにしろよ!って怒鳴って…、あぁ思い出したら腹が立ってきた。でもなんでそれだけで終わったんだ?
…あの後レイと昼飯食べる約束してたからだ。これじゃあまたルナのやつ、調子に乗ってるかもしれない、くそぅ。

って今はルナなんかどうでもいいんだ。俺だって怒る。そう、例えレイ相手でも!

「シン、座れ」
「あ、うん…」
いきなり言われてついその通りに近くにあった椅子に腰掛けた自分に頭を抱えたくなった。いつの間にか到着した医務室、その事実を確認する前にレイの言葉に従っちゃうなんて不覚。

今更とは思うけどとりあえず睨んでみる
ちら、とこちらを見たレイは睨みにもなんのその。さらりと躱して消毒薬を持って正面に座った。
先ほど突いたとは思えないほどの優しい手つきに、怒ってやる!という意志はあっけなくも消え去りそうになった。これではいけない、と眉間に力をいれる。

「いつまで拗ねてる」
「拗ねてるんじゃない」
怒ってんだ!早くも絆されてしまいそうだけど…
そんな俺の心境なんか筒抜けなのか、レイはクスッと笑ってまた指を立てた
もちろん2度同じ手は食らわない。即座に腕で口元の傷をガードしたら…しかしその指は眉間を突いた。

「拗ねるなら怪我をするな。それなりに、心配する」

な、なんだよ…レイってば俺のこと心配なんじゃん、早くそう言えよ、なんか1人で怒ってバカみたいだろ。
ああ、でもなんか恥ずかしい。レイのひと言がこんなにも嬉しい自分が。
顔が熱くて、俯いて「…それなりに、かよ…」って言うだけが精一杯。(言えただけでもたいしたもんだ!)

「ああ、それなりに、な。」
と笑ったレイに、怒ることはできなくて、もうレイの忠犬でもいい…と小さく息を吐いた。







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