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言わない聞けない




 珍しく甲板に出て海を眺める後ろ姿に、なんだか声が掛けづらくて、でも一体どんな表情をしているのか無性に気になって…、足音を殺してそっと歩み寄る。
 結構近くまで来たけどピクリとも動かない彼に、あぁ、もう気付いているな、と思った。
その横に立っても一瞥もくれることなく真っ直ぐに海を見つめる彼の横顔をちらりと見て、彼の向ける視線を追うように海を見つめる。

「…初めて見た」
「……海を?」
主語のない呟きは小さかったけれど確かに届いたから、同じように小さく返すとこくりとうなずいた。

「広いな」
「…うん」
夕日で紅く染まり、キラキラと輝く海はどこまでも続いている。

「こんなに広いと…、人がとんでもなくちっぽけに見える。海だけじゃない。空も大地も、なにもかもが大きい。人の存在なんて、あってないようなものだ。」
「…………そうかな」
「あぁ。人が死んでも何も変わりはしない。どんなに優れた人であっても、時が経てば忘れる。ちっぽけな存在だ。」

饒舌な彼に視線を向けるといつもと変わらぬ無表情。

そんなことない。と言いたかったけれど、なぜかと問われればただ単にそれはオレの感情でしかないから論理的思考のレイにはわかってもらえないだろうし、余計に反論できないような難しいことを言われそうで黙ったままレイを見つめ続けた。



人ってそんなにもちっぽけじゃないと思う。だって少なくともオレは家族がいたということを忘れることなんてできない。
家族の為に軍に入って戦ってるんだ。私怨だの復讐だの、言い方は悪いけどそういう事するのは人間だから、じゃないか。
死んでも尚、生き続けているんだ。


「――――」
「え?」
今度のレイの言葉は届くことはなかった。
だけど少し細められた哀しげな瞳と、歪んだ口元に、あまりよくないことを言ったんだろうな、と思った。


「オレが死んだら悲しんでね。オレもレイが死んだら悲しいから。」
「?」
「わんわん泣き散らせよ。見てる周りも悲しくなっちゃうくらい。手が付けらんないくらい。そしたらさ、みんなレイの顔見るたんびにオレのことまで思い出しちゃうんだ。そういえばこいつ澄ました顔してるけど、シンが死んだ時大泣きしてたなーって。」
「なんだそれは。」
「要は記憶に残ったもん勝ちってこと。」

変な理屈だ。全く理にかなっていない。と言いつつ表情が柔らかくなったレイにこっそりと安堵する。



「でもきっとレイが死んだら悲しむくらいじゃどうにもならないよ。」
「?」
「オレも死んじゃう」
「2人して記憶から消えるぞ」
「それでもいいや。」
「………」
「レイと2人なら。」
「さっきとまるで言っていることが違うじゃないか」
「レイは大泣きしてくれればいいよ。別にオレの後を追ってとか言わないし。」
「当たり前だ」
「うん。」
「泣くとも限らない」
「えぇー」
「お前が生きていればいい」
「……レイもだよ。」

僅かに目を見開いたレイは視線を合わせようとはしない。
「そうだな…」
諦めの垣間見えるその返事に追及はしない。追及、できない。

「そろそろ戻ろうか」
「…あぁ。」









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