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眠れぬ夜は



眠れない―
一体何度目の寝返りだろうか、ごそごそと寝る態勢を変えてみたり足を投げ出してみたりしても一向に眠気はやってこない。

これはしゃあない、羊でも数えるか、なんて考えたとき、向かいのベッドですやすやと眠るレイが目に入った。


同室のこの優等生、レイ・ザ・バレルはとかくよく寝る。気付けば寝てる。朝にも弱い。
でも外に出た途端に人が変わったかのようにキリッとピシッと模範生よろしく振る舞う。部屋での様子をおくびにも出さない。

すごいなぁ、なんて。
すやすやと眠る彼の姿に呆れるような感心するような…、そんな心持ちで見つめる。

アカデミーの女の子の視線を釘付けにしてしまうその容姿。品行方正、成績優秀で教官からの信頼も厚い。

そんな彼と同室で上手くやれるのか、と頭を抱えたこともあったが、何においても完璧な彼も人間なんだと、―ちょっと失礼だけど嬉しかったりもした。
それでもあんまり会話したことがないけれど。


羊どころかそんなことを考えだして冴えた頭に、眠気は全くおりてこない。気持ちよさそうに寝やがって、とレイに軽く毒づき、そっと布団から出る。涎でも垂らしてたら面白いな、なんて思いながら。

床についた足からひんやりと熱が奪われていくようでぶるりと身を震わせ、ゆっくりと向かいのベッドに近づいてみる。
熟睡している彼は起きる気配がない。

片頬を枕に埋め、顔の前に両手を投げ出している。

―可愛い寝姿しやがって。
なんて思って慌てて首を振る。ニュアンス的に「ったく可愛いなぁこいつぅ(はぁと)」みたいなかんじになっちゃった感が否めないから。ちょっと今のはおかしいだろ。なしなし。
何が可愛いだ、いっつも何考えてるかさっぱりわかんないすかした面して、偉そうで。第一男だし。
可愛いはずがない。

そうだ、どっちかっつーと女の子が騒いでるみたいに…切れ長の目に、通った鼻筋、…かっこいい部類、だよな?
今までこうしてまじまじとレイの顔を見ることがなかったなぁ、と(当たり前だけど。)じっくり拝ませてもらうことにする。


やっぱり周りが騒ぐようにレイの顔は整っている。
もちろん涎なんか垂らしちゃいない。
伏せられた瞼からは髪と同色の長い睫毛。薄く開いた唇はオレみたく荒れてなくて…
綺麗な顔だ……



「―ッ!、お、起きた…?」
いつの間にか至近距離で魅入っていたシンの眸と薄く開けたレイの眸とが合う。
…綺麗ってのはあれだ、男から見ても、こう、…なんていうかなぁ!別に変な意味ないし!


慌てて距離をとったシンを認知しているのかいないのか、レイはシンをじっと見つめている。

「い、や…あのっこれはっ…!」
寝呆け眼でぼーっとしているレイにあたふたと無意味に手を振ったりキョロキョロしたり。
どうしよう、あんな近くで寝顔見てるなんて変な奴だと思われたに違いない。いや、もしかしたらあらぬ勘違いをされてしまったかもしれない。
確かにレイの寝顔には見惚れ…いや、ちがっ、見入ってしまったけど、………。おいおい、これもおかしいだろ。寝顔に見入るとか、なんだよ、あり得ないって…!

「そのっ、オレは別に…!」


「………眠れないのか」
「…へ…?」
半身を起こし、起き抜けの少しかすれた声でぽけーっとそんなことを聞いてくる。

「眠れないのか…眠れないときは、…そうだな、…うん…」
1人でぶつぶつと呟きだしたレイにシンはぎょっとする。

「…ね、寝呆けてんの…?」
「眠れないなら…」
「ぅえっ、ちょっ…」
決して強い力ではないけれど、突然腕を引かれてよろめく。








息がかかりそうなほど近くにあるレイの顔。
どうしよう、とか、なんだって男同士でせまっ苦しいベッドに寝ないとならないんだ、とか思わないでもないけど、近くから聞こえるレイの寝息とあったかい布団とで急激に睡魔に襲われる。さっきまであんなに冴えていたのが嘘のように。
バクバクと打っていた心臓も次第に落ち着きを取り戻して。

あぁ、眠くなってきた。今なら寝れる。
自分のベッドに戻るのも億劫で、どうせ朝、先に起きるのは自分だろうし、男同士なんだから同じ布団でも何か起きるわけでもなし…………なんかレイからいい匂いするし…



―朝起きたらレイが覚めない内に自分のベッドに戻ってしまおう。

レイの柔らかな髪に顔を埋めて、眠りに就いた。



終わり




レイはいつでもピシッとしてそうだけど、実は朝に弱かったりすると萌えるよねっていう









おまけ↓


何かの動く気配がして重い瞼を押し上げると、心底迷惑そうな顔をしたレイの顔。
「起きたか。」
「………、あれ…」
「こちらは俺のベッドだ。寝呆けていたのか」
起きて一番に疑問符を出したシンにレイが呆れたような視線を向ける。

「………なんでレイ起きてんの」
「お前に蹴られたからだ。」

一体お前は何をしているんだ。と、なおも呆れた視線を投げ掛けるレイにシンはむっとなり、
「寝呆けてたのはお前だろ!」
「………俺に否があると?」

そこにシンは「うっ」と言い淀む。

「だって…ベッドに引っ張り込んだのお前だし……。」
「…………」
「っ最初にお前んとこ寄ってったのはオレだけど…」
「寄った?」
「べ、別に変な意味とかないし!……ただ、涎とか垂らしてたら面白いなと…」
「ほぅ……」
眉根を寄せたレイにシンは慌てて取り繕う。
「垂らしてなかったけど!」
だからとにかく、オレはぜんっぜんソッチの気はない!と断言するシンに、気付かれない程度にレイはクスリと笑いを漏らし、いつもの表情に戻る。
自分の寝汚さには多少なりとも自覚があるレイはシンの言葉は真実だと、残念ながら理解せざるを得ない。
ただ、ここまで必死で否定し続けるシンの姿にちょっとしたいたずら心。


「そうか。……ならばそういうことにしておこう。」
「なっ、そういうことってお前、信じてないな!?」

ギャーギャー騒ぐシンを適当にあしらいつつ、時計を見てレイは小さく笑んだ。
コホン、と咳払いなんかをしてみせて、



「今からシャワーを浴びたいんだが。」

「はぁ?」
勝手に浴びればいいじゃん、と不貞腐れた顔のまま返すシン。





「………覗くなよ?」

「ぶっっっ、だ、だ、誰が覗くか―――!!!!」

シンの叫びに思わず声を上げて笑ったレイにシンはからかわれたと更に顔を真っ赤にする。

「お前、性格悪すぎ!」

「なんだ、今さら気付いたか?」

悪びれる様子もなくけろりと言ってのけるレイ。

「コノヤロゥ…」
まだまだ言ってやりたいことは沢山あったけれど、脱衣場に入っていったレイを追えばまた何を言われるかわからない。

「〜〜っ、覚えてろよ!!」
どこぞの悪役のような捨て台詞とともに、

シン・アスカ、レイ・ザ・バレルを敵視し始める。



おまけなのに長い。





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